なべ

アシュラのなべのレビュー・感想・評価

アシュラ(2016年製作の映画)
3.9
おもしろかった。
先日観た「工作」のファン・ジョンミンが、胸焼けするくらい圧の強い悪を見せてくれる。品性下劣な社会的強者なんだが、もうエグいエグい。デカくて下品な声色は、性根の腐った感に満ちていて、見てるだけで嫌悪感が!
出だしからムード満点。アタリの映画だとわかる。空気が、佇まいが違うのだ。説明的なセリフはないけど、観ているうちにそれぞれの立ち位置、性格、抱えている問題等が明らかになるうまい語り口。

善にも悪にもなり切れない刑事・チョン・ウソンがどんどん深みにはまっていくのが痛々しい。そう、文字通り痛々しいのだ。暴力こそが強さとばかりに、痛いシーンが次から次へと描かれる。
最後のシークエンスなんて明らかにやり過ぎで、善も悪もすべてが暴力によって淘汰されるというね。
そんなバイオレンスな作風のなか、注目すべきはチュ・ジフン。「工作」のヌメーっとした嫌な演技とも、「神と共に」の軽薄な演技とも違う、深みと味わいのある芝居。ソンべ市長を演じるファン・ジョンミンが直線的な演技をするなら、俺はもっと婉曲的な表現で作品に奥行きを与えてやるとでも言っているかのよう。
確かにファン・ジョンミンの演技は鬼気迫るものがあるけど、不満がないわけではない。あまりに暴君すぎて、こんなんじゃ部下は誰一人着いて来ないだろうと思うのね。どんなにひどい悪であっても、リーダーならば、どこかしら惹かれる部分がないとね。そんな市長の見えざるカリスマをチュ・ジフンは子分の存在を通して間接的に肉付けしているように感じられるのだ。それが演技欲なのか、作品をよりいいものにしたいという使命感なのかはわからないが、チュ・ジフンの演技にそういう気概というか、野心を感じるのだ。
見かけが洗練されていくにつれて中身が腐っていくようなねじれ具合がちょっとした表情や言葉の端々に表れるのがたまらない。この人ほんとセンスあるわー。次の演技も超楽しみ。
とまあ、チュ・ジフンが実力派だとわかったアシュラでした。
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