朱音

バスターの壊れた心の朱音のネタバレレビュー・内容・結末

バスターの壊れた心(2016年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

ジグソーパズルを遊んでいて、完成まで残り数ピースとなったが、それらのピースはどれも微妙に合わなくて、あとちょっとの所で完成しない。
そんな感じの映画。

社会の軋轢の中で、日々衰耗し壊れてゆく主人公ジョナをラミ・マレックが好演していて、ホテル従業員として家族と共に過ごすジョナと、彼の心が壊れた後のバスターとなった姿はまるで別人のような変貌ぶり。
ジョナとバスターのシークエンスを交互に見せていく構成だが、起こる事の不可解さとは別に、不条理・シュール・電波系というか、この手の作品の中では非常にまとまりがあって分かりやすい。
特にジョナ・サイドの展開はドラマとしてきちんと見応えがある。
編集のテンポは良いのだが、これはある程度仕方のない事なのだけれど、バスター・サイドのシークエンスは基本、彼の不可解な行動を追っているだけなので、物語に求心力がない。決してひとつひとつのシーンに見応えがない訳ではないのだが。
加えて彼がこうなってしまった、その契機について観る側はある程度容易に察せてしまうというのもあり、どうしてもドラマとして推進力のあるジョナ・サイドと比べてやや退屈に感じられてしまい、全体的なエモーションが途切れ途切れになってしまう感じがするのは否めない。

映像のルックも素晴らしく、ホテルの大広間や、スカッシュコート、大海原に漂う一艘の手漕ぎボートなどフォトジェニックなキメ絵も多く印象的。
また音の演出、ドローンノイズのような劇伴やテレビやラジオから流れる電波なメッセージなどの作り込みも見事で、現実の世界と、独特のワールドを上手にミックスし、信憑性のある映画内世界を作り上げている。
逆さまの写真や部屋番号なども印象的で面白い。

この映画における様々な謎に関しては、文字通りその全てが投げっ放しジャーマンなので、諸々推察するしかないのだが、最も不可解なのは主人公がどのタイミングで壊れたのかというところかな。
いくらでも想像出来る余地がある。

観る人を選びはするが、とてもバランス感覚に優れたセンスのある作品だと思う。
朱音

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