歴史学者の磯田道史先生が古書店で買い付けた幕末加賀藩の御算用方を努めた猪山家の家計簿といった史料を元にまとめた同名の教養書を原作とする時代劇ホームドラマ。
流石にそのまま一般人である猪山家を描くには平坦すぎるからか、「安政の泣き一揆」に絡めて、主人公の直之が不正を糾弾して出世した創作なども加えているがそれでも相当地味な印象は否めない。
ただ、それは幕末の一般家庭をそのまま描くという意味で一貫しており、変に現代風のホームコメディにするよりもだいぶ好感が持てる。
演者も全員素朴なイメージの役者で統一してキャスティングされており、特に着もしない豪勢な着物を売りたくないと駄々をこねる松坂慶子は可愛らしい母親として満点である。着物に絡んだ最期なんてベタだけど泣いてしまった。
終始、幕末一般家庭による借金返済のための㊙倹約テクといった感じで淡々と進んでいくからこそ、終盤に一家の嫡男が大村益次郎に才を見出され会計方として登用されたという史実に基づいた展開には驚いた。しかも大村益次郎暗殺の現場にまで立ち会っていたという。祖父から父、父から子へと受け継がれた算用が、こうしたビッグネームや重大事件へと巡り合わせるというのだから歴史というものは甚だ数奇なものである。
地味ではあるものの確かな歴史ロマンに浸れる、そんな不思議に雄大な作品だった。