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ザ・シェフ 悪魔のレシピのkuuのレビュー・感想・評価

ザ・シェフ 悪魔のレシピ(2016年製作の映画)
3.7
『ザ・シェフ 悪魔のレシピ』
原題K-Shop
映倫区分R18+.
製作年2016年。上映時間120分。

理髪店の店主がカミソリを手に客をミートパイにしてしまう『スウィーニー・トッド』の物語にインスパイアを受けて製作された英国産リベンジホラー。
理不尽な世の中に怒りを抱くケバブ屋の店主が、包丁を片手に狂気の復讐を繰り広げる様を描く。

イギリス、ロンドン郊外の街の一角で、父ちゃんとともに細やかなケバブ屋を営む移民の青年ラサール。
街には酒とドラッグに溺れた若者であふれていたが、近所に有名起業家がナイトクラブをオープンさせたことから、近頃は若者たちの傍若無人な振る舞いに拍車がかかっていた。
そんなある日、ラサールの父が客に絡まれて暴行を受け死亡。
移民であることの社会的閉塞感と父を殺された怒りに震えるラサールは、復讐を開始する。。。

人肉を食らうカニバリズム系は『ハンニバル』とかでも描かれてるが、客に提供する食材に人の部位を使うなんて、考えただけでおぞましい。
日本でも、現実に『手首ラーメン事件』てのが1978年に起きたそうです。
こちらは、ヤクザモンの抗争とバラバラ殺人の複合型事件です。 
都市伝説ではなくマジに『人の手首』を使ってラーメンを作ったんは、おそらく手首だけではなくあらゆる人骨で出汁を取ったとおもわれる。
手首ラーメン事件が起きた当時は世間やラーメン業界に衝撃を与え、ラーメン屋の売上もダウンしたそうです。

偖、今作品の主人公はおぞましい事を繰り返してるし、赦される事では絶対にないながら(多くのシリアルキラーはヘドが出る奴らばかりだけど)、なぜか完全に憎むことも嫌うことも出来ないキャラでした。
また、カオスと化した町並みや人々は、イングランド南岸のボーンマスとその周辺で撮影され、多くのショットは、週末に街で深夜パーティに参加する人たちのリアルな率直な映像らしく、セットやエキストラかと思ったほどのイカれ具合。
映画に出てくるナイトクラブ『ハッシュ』や『セント・アンドリュース教会』は、実際はイギリスのボーンマスにあるセント・ピーターズ教会で、『フランケンシュタイン』の作者メアリー・シェリーが埋葬されているそうです。
今作品は、シリアルキラー系としては、少し味わいがちがったかな。
英国、特に過去20年間にその文化と品位がいかにクソ劣化したかを、効果的に厳しく、かつ率直に風刺した作品でした。
毎週末に起こるイギリスの嫌な(しかし、悲しいかな町をうつる人々はエキストラではなくリアルな人やし、非常に現実的で誇張されていないと思う)大酒飲みの悲劇と、それに関連するあらゆる下品さ、恥ずかしさ、て云う痴態を激しく非難していることは、十分に明らかやと思う。
そのへんを非常にシニカルでキレてもた脚本家兼監督のダン・プリングルは、同時に他の多くの恥知らずな悪癖も批判している。
特に、イギリス人が移民をいかに無礼に扱っているかってとこです。
しかし、社会派にくわえ、狂気のブラック・コメディであり、予想以上にゴージャスなホラー/スリラーでもありました。
カニバリズム、自警団、現代のスウィーニー・トッドとか、さまざまな興味深いテーマが扱われてたし、特に、これがダン・プリングルの長編映画デビュー作であることを考えると、今作品は、間違いなく、期待を超えてたし、過去数年間にイギリスから生まれたホラー映画の中で好みの作品と云えます。
今作品で、ダン・プリングルが社会的な主張をすることが第一の目的であったんなら、彼は確かに主張はされてる。
小生は、大酒飲みでもなければ(以前は否定できないがかなりの年月酒は呑んでない)、イギリス人でもないが、映画のほぼ全体を通して、恥ずかしさの代償を感じた。
公共の場で酒を飲み喧嘩をする。
不品行をして嘔吐し、排尿しさらには姦淫する人々を描いた大量の(ストック)映像が明らかかな。
それは小生がオヤジになったしか、不快で限界的なモンやったし、それが真実であることを知っているから、むしろ憂鬱にさえなった。
しかし、今作品は、この種の映画で2時間は長いかなぁと感じたのも確か。
プリングル監督はいくつかのシークエンスやサブプロット全体をもう少しカットしたり縮めたりすることができたようには感じられる。
とは云え、演技は素晴らしく、サウンドトラックには爽快で刺激的な音楽が多数収録されている善き作品でした。
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