140字プロレス鶴見辰吾ジラ

アンダー・ザ・シルバーレイクの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.0
”READY PLAYER ONE”

「きっと何者にもなれない者たちへ」

「アンダー・ザ・シルバーレイク」は存在を模索する者たちへの「レディ・プレイヤー・ワン」だったのではないか?ボンクラな主人公がたった1人の女性への再会への執念で、ハリウッドの奥底へと潜っていく過程は、明らかなコメディとして映るのだが、それが「何者にもなれない」と気が付いてしまった裏ハリウッドの住人の抵抗として見えたときに急に愛おしく見えてしまう。冒頭のリスの虚構丸出しの死のシークエンスから、主人公の主観ショットというか主観世界にて現実と虚構の合間にされた道をヒッチコックをはじめとした過去の名作へのオマージュにより彩るのは、今年のGWの話題を席巻したスピルバーグの「レディ・プレイヤー・ワン」と同じ精神に位置しながら、犬殺しというハリウッドという煌びやかさに嫉妬した裏ハリウッドの存在の希薄さを自分だけが知り得た謎という特別性で埋めようとするイースターエッグ探しに映る。スピルバーグが壮大なVR世界を映像化したなら、本作は主人公視点で読み解いていくグラフィックノベルの映像化に近いかもしれない。予告の段階で「LA LA LAND」の成功の裏を見せつつ、実は「マルホランド・ドライブ」のような純粋なカオスへの誘いかと思ったが、トマス・ピンチョンの小説の肌触りと、ポップカルチャーを背後から殴りつけるあざといオタクのならではの陰湿性を垣間見た気がする。日本のグラフィックノベルゲームの「ひぐらしの鳴く頃に」の竜騎士07氏の描く、主観かつ実在しない事象における虚構の具現化のような悪夢体験が味わえた。本作の体温がもっとも感じられるソングライターの城の表現の仕方と、その対決におけるすべてのポップカルチャーへの背徳行為こそが最もエモーションの度合いを押し上げ、そして「アイドルは天使だからウンコしない」論に対しての袋小路的な敵の設定をこれでもかとブラックユーモアに味付けしたところは忘れがたい。成功者は常に上へ上へと視線を向かわせるが、何者にもなることを果たせなかった者が、ただ単純な欲求のために前に前にと視線を向ける先に描かれた、信じなければ自身の存在を危うくするような危険な旅路を、オカルトという虚構の砂粒の中からもしかしたらあるかもしれないダイヤモンドを探すかのような哀れさや滑稽さをアンドリュー・ガーフィールドがお見事としか言いようのないオタク走りで表現して魅せた。圧巻と冷笑である。単に不思議な主人公の少しばかりの成長物語ではあるが、グラフィックノベルの主人公視点を追いかける嘘か誠かを散りばめられたカルチャーの中に探す旅は、まさに「何者にもなれなかった者たちが行く、レディ・プレイヤー・ワン」だった。日本が舞台ならば秋葉原や中野ブロードウェイでニワカの範疇から抜け出ない漫画家志望の青年のめくるめくサブカルチャー地獄となってしまいそうだ。