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立ち去った女の小のレビュー・感想・評価

立ち去った女(2016年製作の映画)
3.5
ベネチア国際映画祭で金獅子賞受賞作にして3時間48分休憩なしの長尺。5時間、6時間は当たり前なフィリピンのラブ・ディアス監督作品としては“奇跡的に”短い方だという。眠くなるかもと思いつつも、殺人事件の冤罪で30年間投獄されていた女、ホラシアが、彼女を陥れたかつての恋人、ロドリゴに復讐する話ということで、まあ大丈夫かなと鑑賞。

甘かった…。長回しとロングショットのモノクロ映像をつなぐスタイル。それはまるで、芸術的な写真をじっと眺めているかのような錯覚に陥り睡魔が…。

パンレットの文章(筆者は石坂健治氏)によれば、近年「スローシネマ」という映画用語が普及しつつあるそうで、タルコフスキー(でたっ!)、アントニオーニ、アンゲロプロスらに起源を持つという。

それは<時間の省略と空間の飛躍によって効率的かつ劇的に物語を語るのではなく、画面内にあらわれる時空間を観客も共有して一緒に生きるような映画>って、今のところ、例外なく眠くなる(タルコフスキーは6作見て、すべて撃沈)。

ディアス監督の2大テーマは「魂の救済」と「歴史の再構築」(引用元は先のパンフレットの文章と同じ)ということらしいけれど、後者はともかく「魂の救済」ということならばわからなくはない。

釈放されたホラシアの息子は行方不明、夫は亡くなっていて、一家は離散。彼女が復讐に向かうのは、多分、やり場のない自分の気持ちを慰めるため(かな)。

しかし、ロドリゴの住む島で出会ったのは、バロッド(アヒルの卵)売りの貧しい男、精神を病んだ物乞いの女、心と身体に傷を抱える謎の「女」と、いずれも救済を求める者達。ホラシアは夜、帽子を深くかぶり黒ずくめの格好でロドリゴのスキを狙う一方で、彼らに対しては金を渡し、傷を手当し、「優しい人」となる。

自分の魂を救うのは復讐か、それとも他者の救済か。よくわからないけれど、わからないということ、あるいは救済など本当はないと言いたいのかもしれない。そう考えるとラストシーンも腑に落ちてくる気がする。

●物語(50%×3.5):1.75
・哲学的で個人的に好みっぽいのだけれど…。

●演技、演出(30%×3.5):1.05
・見る人が見ればわかる良さがありそうな…。

●画、音、音楽(20%×3.5):0.70
・芸術的なような気がするものの鑑賞力が乏しく…。
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