Filmoja

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのFilmojaのレビュー・感想・評価

4.0
なんて痛々しく、そしていとおしい映画なんだろう。

マーゴット・ロビーが全身で表現する彼女の半生、華々しくも不条理すぎるその生きざま。
当時、様々な憶測を呼んだ「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を関係者の証言で再現する。簡単に言うと、(実在する)イカれた登場人物たちのイカれた行動がすべての根元であり、自業自得でもあり、それゆえに才能を潰され、キャリアを奪われ、笑い者にされ、それでも人生を諦めなかったトーニャの強さに、ただただ感服する衝撃(笑撃?)の実話。

全米から(一瞬だけ)愛され、もてはやされても、本当に大切な人からの愛はついぞ得られなかった彼女の孤独感が(文字通り)痛いほど伝わってきて、全編を貫く皮肉めいたシュールな作風にも納得せざるを得ないし、このバカげた事件がなければきっと幸せになれただろうし、今作が製作されることもなかっただろう。

ドキュメンタリータッチで描く伝記映画としては、観客をおちょくるような異色の演出が意外で、そこがおもしろかったりもするんだけど、感傷的になりそうなところで不意にハッとさせられる、これは実話なんだというリアリティーを(ムリヤリ)感じさせる滑稽さ。
入り込めそうで近づけない、ギリギリのバランスを保ったままラストまで引っ張る構成はさすがだし、安っぽい悲劇(喜劇?)映画にしなかった監督の決断はお見事。

どんなにハードな境遇でも人生の不運に決して屈しなかった、リンク上の彼女の一瞬の輝きをとらえ、良くも悪くも、人々の記憶に刻まれた真実の物語に心が惹きつけられ、同時に目を背けたくなるような、引き裂かれる感覚を味わえる野心作。

これを観たら、トーニャ・ハーディングのパンクな人生に、幸福を願わずにはいられない。
Filmoja

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