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軍旗はためく下にの小のレビュー・感想・評価

軍旗はためく下に(1972年製作の映画)
4.2
東京・渋谷ユーロスペースで、現役日藝生の企画・運営による映画祭「映画と天皇」にて鑑賞。戦争における苛酷な現実と不条理を描き、そして天皇の戦争責任をチクリと刺す映画なのだろうか。

昭和27年、「戦没者遺族援護法」が施行されたが厚生省援護局は、富樫軍曹の未亡人サキエの遺族年金請求を却下した。「戦没者連名簿」によれば富樫軍曹の死亡理由は「敵前逃亡による処刑」であり、遺族支援保護法では軍法会議により処刑された軍人の遺族は扶助の対象外だから。

しかし、処刑や軍法会議の記録などは何ひとつなく、そもそも富樫軍曹が敵前逃亡したかどうかも定かでない。サキエの執拗な追求に厚生省は、当局の照会に返事をよこさかなった者が4人いて、何か知っているのではないかとサキエに伝える。真相を明らかにすべく、サキエが4人に会いに行き、過酷で理不尽な夫の戦争を追体験する。

この映画を見ている最中、ドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』がオーバーラップして仕方なかった。特に千田少佐との場面では、その上から目線の物言いに歯がゆくなり、『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三ならタダじゃおかないぞ、と思った。

ところで、元外交官で作家の佐藤優氏のトークショーがあり、彼は『羅生門』に似ていると話していた。サキエに話をする者達は言いたくないこと、自分にとって都合の悪いことは話さない。しかし、複数の人に話を聞いていくうちに矛盾点が出てきて…、みたいなことは『ゆきゆきて、神軍』でもあったと思う。

奥崎謙三が戦争の理不尽に怒り行動し、天皇の戦争責任を追求するのに対し、サキエは戦争の理不尽を知り、夫・富樫軍曹の天皇への思いを知りながらも、それらを飲み込み、胸の内に秘めることにしたように見える。

観客は奥崎謙三に対しては、痛快に感じるか、鼻白むかだろうけど、サキエに対しては彼女のやるせない気持ちに共感する。

佐藤氏は、本作について「天皇神話に包摂されているという日本の在り方を(作品外のところで)見事に示している」という。戦争を批判し、天皇をチクリと刺すようなことを描いていても、この映画を見た人が天皇の戦争責任を追及する行動に出ることはない、と。

そういえば『ゆきゆきて、神軍』を見たとき、原一男監督が上映後のトークで「公開当初、凄く深刻な内容なはずなのに何故か笑いが起きていて意外に思った」というようなことを話していた。

佐藤氏の言いたいことは、我々日本人の無意識には天皇が存在していて、天皇をなくすことはできない、ということだと思うけれど、それはこの映画祭「映画と天皇」のテーマなのかもしれない。

●物語(50%×4.0):2.00
・『ゆきゆきて、神軍』を見ていなかったら驚愕したかもしれない。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・深作欣二監督の代表作という話も。やっぱり凄いです。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・迫力アリ。
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