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空(カラ)の味の小のレビュー・感想・評価

空(カラ)の味(2016年製作の映画)
4.3
「第10回田辺・弁慶映画祭」でグランプリをはじめ4部門を受賞。テアトル新宿での特集上映は見逃してしまったけれど、渋谷アップリンクの期間限定上映で、摂食障害の女子高生の話、というくらいの知識しかない状態にて鑑賞。

摂食障害の女子高生・聡子が、ある女性・マキさんと交流することで次第に立ち直っていく物語。心情を示すような抽象的な映像表現もあるけれど、とてもリアルと思いながら観ていた。

上映後、予定にはなかった監督と主演女優のトークショーがあった。そこでこの映画が、ほとんど監督の実話を描いているのだとはじめて知った。

監督は自分のことは誰にも言いたくなかったという。でもある時、マキさんのモデルとなった女性のことについて考えていくうちに、その女性を肯定したい気持ちが極まってきて泣き、映画を撮ることを一緒にいた人にも励まされたという。そして彼女を描くのであれば、自分のことも避けて通れないと思い、当時関係がギクシャクした家族への思いも込めて、撮ったという。

映画のメッセージは、生きていればそれでいい、ということだと思う。どんな人もダメではない。自分をダメだと責めなくて良い。ダメな自分を丸ごと認めれば良い、と。

摂食障害に苦しむ聡子の様子、家族との関係、友達に求める救い、マキさんとの交流。そのメッセージを示すための内容はとても重く、辛い。ありのままのメッセージは、ありのままの経験を描いてこそ。監督は、撮影中はほとんど泣いていたという(ググったところ、それは自分にとってはセラピーだったという)。

監督は、観てもらうことではなく、作ることが目的だったという趣旨の覚悟を話していたから、伝わらなかったり、嫌悪感を抱いたりする人が多くいても不思議ではない。

それでも自分が心動かされるのは、この映画が本質的には孤独を表現しているからであり、人間のホントウを示しているからだと思う。

困難にぶつかり、やるせない思いに囚われ、他者を受け付けられなくなり孤立することはままある。それでも決定的に孤独に陥らないのは、自分自身を責めるかどうかだけなのかもしれない。

しかし、もし自分のせいで誰かが亡くなるなどといった困難に直面したとしたら…。現実に耐えられず、自分を責め続け、孤独の深みに落ちていくかもしれない。そんな時、自分は決して一人ではなく、したがって自分は決して孤独ではないのだということを、この映画は語りかけてくれている。

テアトル新宿での舞台挨拶後、出口で観客にお礼の挨拶をする監督のもとに一人の女性がやってきて、感謝の気持ちを涙ながらに語ったという。人は自分一人でなければ生きていける。この映画は孤独いう病に囚われた人の心のクスリであり、そうでない人には予防接種なのかもしれない。

●物語(50%×4.5):2.25
・ありのまま。だから響くのかもしれない。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・細かい演技指導や演出はせず、監督自身の気持ちを伝え、役者さんなりに演じてもらったという。役者さんたちが監督の気持ちをしっかり受け止めたからこそのリアリティなのだろう。

●映像、音、音楽(20%×3.5):0.70
・抑制のきいた映像と音が雰囲気にハマっている。
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