ゆーあ

HiGH&LOW THE MOVIE3 / FINAL MISSIONのゆーあのネタバレレビュー・内容・結末

HiGH&LOW THE MOVIE3 / FINAL MISSION(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます


『FINAL MISSION』鑑賞にあたっては、前作からの続きを早く見たい!と急く気持ちと、終わってほしくない、このままSWORD第一世代が永遠に続いてほしい…というザム1の琥珀さんのような気持ちがないまぜになって、公開日が近づくにつれ躁鬱状態が激化していました。

しかし観終わった今は、寂寥感とともに清々しい気持ちでいっぱいです。ザム1が熱い夜明けだとしたら、このFMは晴れた冬の早朝という感じでしょうか。そして何より溢れる「ハイローが好きで良かった!」という喜びと感謝の気持ちに心地よく浸っています。

ドラマ、『THE MOVIE』と続き、『END OF SKY』でさらに広げた風呂敷をこの1作でどうやって畳むんだろう…というのがファン共通の疑問点でしたが、答えは―も~っとでかい風呂敷でまとめて包み込む!!!つまりこれまで築いてきた壮大なストーリーに、更に壮大な設定をかぶせて、それを回収することで全部まとめて片づけるという、前代未聞の荒業!!そのため新鮮な見所や驚きの事実が2時間の中にたっぷり含まれています。しかも初見情報のすべてが新設定かと思いきや、シリーズ当初から決まっていたものもあったりして、鑑賞後の深読みに拍車がかかる。最終章だからといって、淡々と物語を収束させていくと思ったら大間違いで、ハイローに期待している「楽しみ」があますことなく詰め込まれています。

ハイローに期待している「楽しみ」といえば、やっぱり超絶アクション!今回「言葉で語るストーリーが主で、アクションは少ない」と言われていましたが、断言するとあれは嘘です(笑)。いや言葉で語る部分は非常に重要なのだけれど、決してアクションは少なくない!特に今回は環境を生かしたバトルが多いので、私は一番好みでした。

前回『END OF SKY』のラストで義信会長の腹に蹴りを入れ、宣戦布告をしたコブラ。『FINAL MISSION』はその続きから始まります。暴挙に対し義信会長がどう反応するかは、気になりながらも見るのが怖いと思っていた部分ですが、本業ヤクザの圧は想像以上だった!激昂するでもなく、ゆ~っくり起き上がってその場で胡坐を組み、SWORDの終わりの始まりを宣言する。熱い若者たちの喧嘩にはない冷え切った大人の余裕が、九龍グループと闘うことの恐ろしさや無謀さを表していて、これから展開する物語への緊張感が一気に高まりました。大人の余裕といえば、中盤で無名街を訪れた植野会長が「シーッ」というジェスチャーをすると同時にBGMのクラシック音楽が止まる、という演出がありますが、これも、自身を取り巻く環境をも操れる力の強大さを軽々と見せつけるようで好きなシーンです。

追い詰められたコブラ。ここからの一連の映像はアジアンノワール映画的な風情に満ちていて物哀しく美しいです。雨の中、単身克也会を襲撃し、返り討ちに合う姿を俯瞰で撮るシーンはまさにそれ。熱い想いが無情に散って、モノクロの世界に融解していく様は、今までのハイローではあまり見たことない新鮮な絵でした。

苛烈な拷問をうけながら、山王街への想いを走馬灯のように振り返るコブラ。俺たちはただ、この街を守りたかっただけだ。本当の痛みを知らない俺たちは、まだガキだった。その痛みの先にあるのは…こんなに理不尽で惨めな仕打ちなのか?まさにドラマS1E1の問いかけのフラッシュバックであり、ここから先全ての展開がそのアンサーになる壮大な仕掛けに身震いしました。やっぱりこの『FINAL MISSION』はシリーズの総決算なんだって。

この裏で、こはつく雨宮は九龍のアキレス腱を射抜く弓の存在を知るのですが、政府の陰謀と暴力団との癒着、強大な闇を暴こうとする警察の秘密活動…この辺もアジアンノワールの要素に満ちてとてもわくわくしました。ていうか西郷!!正直言うと私は「西郷は最後まで悪い奴でいてほしい」という願望があったのですが、このシーンによって仕事に命を懸けられる信念を一瞬で感得したので、その願望は跡形もなく吹き飛びました。こっちにも頼れる大人がいるの嬉しいな。

ここで明らかになるSWORD地区の秘密には素直に血が沸き立ちました。あの真ん中の変な空間は秘密の心臓だったのか…!これまでキャッキャしながら楽しんできた世界にハードな設定が付け加えられることで、もっと奥の楽しみを掘れる新しい鉱脈を見つけた気がしました。

そして物語はダークな陰謀が渦巻くアジアンノワールから、タイムリミットまでにFINAL MISSIONをクリアするハラハラドキドキのジェットコースタームービーに変わります。その最初の加速である秘密基地脱出戦は大興奮の面白さ!私は狭く入り組んだ建物内で、その構造を生かしながら闘うダンジョンバトルが大大大好きなので、こことラストの無名街地下工場突破戦はシリーズ最高のアクションシーンでした。セットかロケかはわかりませんが、もし後者ならよくこんな場所を見つけたなあって感じ。特に雅貴が豪脚で床板を踏み抜くのを合図に始まる長回しは何百回でも観たい!実際の建物の広さが分からなくなるような目くらましのスケール感、トリッキーで本ッ当に面白すぎる!!戦闘開始の合図としてかかる「MUGEN ROAD」も、「MUGEN ROAD」史上最高の「MUGEN ROAD」でした。
細かいところでは琥珀さんと雅貴が背中合わせになって目線をかわすのがいいですね。決して友達でもないし仲良くもないけど、互いに背中を預けられる無上の信頼がある。MUGEN時代のぶつかり合いを反芻すると、たまらなく胸が熱くなります。あとリトルアジアで兄貴を侮辱されたときの雨宮兄弟のスイッチが同時に入る様。FMは『RED RAIN』の存在が、ストーリーだけでなく雨宮兄弟の精神から感じ取れるシーンが多くて良かったです。

拉致されたコブラの身を案じながら走るSWODのカットは、「行くぞ!超合体!」と続かんばかりの熱い連帯感と、「だがそれどころではないルードボーイズ!!!」という感じで失礼ながらちょっと面白かったです(笑)。しかしそうしてみんなの想いの結果救われたコブラが、自分のことよりもまず「スモーキーが危ねえ」と言ったことにSWORDが繋がったことを感じて心震えました。


そしてスモーキーですよ…

スモーキーの運命については、もちろんやっぱり悲しいけれど、それよりも「最高の人生」で終われたことへの安堵と歓びにシンクロしました。スモーキーは直接的に多くを語りませんが、ここは窪田くんの圧巻の演技力で凄まじい量のメッセージが流れ込んできました。薄く笑う口元に、家族への信頼と誇り、ともに過ごせた幸福が詰まっている。「生きることを絶対に諦めない」信念を家族に託し、無名街という「場所」への執着と、「誰かのために夢を見る」ことを、自分を依り代に捨てさせる。ここでああ、ルードボーイズのリーダーはやっぱりスモーキーなんだと確信しました。そしてそれを、今タケシに引き継いだことも。走り去るタケシを見送って、一瞬だけ泣きそうな顔をしたのがたまりませんでした。自分のやるべきことは全てやった。けれど、永遠の別れに対するどうしようもない悲しみと寂しさは溢れてくる。そこに死に対する恐怖や忌避は一切ない。この驚異的に細やかな表現力、窪田君がスモーキーで本当に良かったと思いました。

回想とともに語られるスモーキーの最期の言葉は、ルードのリーダーとしてではない彼自身の想いがいっぱい詰まっていて…その顔には今まで見たことのないはっきりした笑顔が浮かんでいて、先の悲しげな顔といい、家族が誰もいなくなってからそういう表情を見せるの、本当にずるい!その満ち足りた思い出の中には、きっとかつての「カイン」も含まれていたんだろうなあ。それが二階堂さんにはたまらなく苛立たしくて、「その名を呼ぶな!」と激昂したのかもしれない。

スモーキーの最期と、二階堂さんの過去で頭がいっぱいになり、この後の九龍と警察・政府官僚が屋上でゴルフをしながら「ぱーっと爆破でもしますかー!」というシーン、そしてアナウンサーがさも当然のように「爆破セレモニー」というトンチキワードを連呼する様に、本気で「この国はバカなのか???!!」と焦った(笑)。山王や鬼邪高が自虐的に「俺らバカだけど」というけど、一番バカなのは政府だよ。どーなってんだこの国は。しかしハイローでそんなことを言っても意味がないのである。
政府の陰謀を立証する3つの証拠を集め、爆破セレモニーを食い止めるFINAL MISSIONがいよいよ最終局面に突入します。

SWORDとこはつく、雨宮兄弟がそろい、それぞれの決意を述べるシーン。MUGENのマークを背に、横並びにバイクにまたがるこはつく雨宮の絵は最高でした。全てが始まったこの場所で、全てが終わろうとしている。かつて向かい合って闘った4人が、今は同じ方向を向いて走り出そうとしている。正にシリーズ最終章のクライマックスを象徴する絵だと思います。

ここから3班に分かれて作戦が遂行されますが、なんといっても語りたいのはルードボーイズの格好良さ!ピーちゃんのパルクールは相変わらず息をのんで魅入っちゃうスゴ技で、琥珀さんの足を踏み台に4回転半(適当)宙返りするシーンは、完全にあの場の主役と化していましたね、琥珀さんとピーちゃんという組み合わせも、よく考えたらめちゃくちゃ珍しい。琥珀さんが「俺と雨宮、ルードは証拠を探す」と言ったときは「戦力分配がめちゃくちゃだろこら!」と思ったのですが、今は神に感謝します

一方その結果ウルトラバカどもが集結してしまった爆弾解除班ですが、ここはDTCのノリが全開ですごく面白かったです。「ノボルさん待ちましょうよォ!!!」というチハルの悲痛な叫びが木霊するwww冒頭からDTCは決別したままではないかと心配していたのですが、(絶体絶命の状況だけど)ここでこうしていつもの姿が見れたのは本当に嬉しかったです。九龍とやりあうことで仲間が傷つくのは見たくない。けど、困ったときに助け合えるのが仲間やろ。根本的な思想は変わっていないけれど、テッツの親父さんの言葉を聞いて、傷ついたコブラのもとに駆け付けるダンさんは大人だなあと思いました。その姿を見たコブラの嬉しそうな笑顔も、忘れられない名シーンです。

ここまでもうずっとMAX状態のテンションを、更にボーナスステージに連れていく演出が、運び屋雨宮兄弟!!!本業~~!!!確かにあの場でこのMISSIONに一番相応しいのは彼らだ!!荷物をかかえ広い道路を爆走する姿に『RED RAIN』がオーバーラップし、必ず完遂させる意志と、きっとそれが叶うであろう安心感を感じました。

そしてその先で待つ達磨一家よ!やっぱり元九龍の血を引く達磨一家、先読みのレベルが違う。決起集会の時に日向が「俺らは何をすりゃあいい?」と指示を仰いだの、ちょっと驚いたんですよ。しかもかつて腹の底から憎んだ元MUGENの総長に!少し話がそれますが、日向会を破門した九龍を潰そうと復讐心に燃えていた日向が、山王との喧嘩を経て自らが生きる目的を見つけ、突き進んでいった結果、また九龍と闘うことになる。この不思議な運命を彼はどう感じているのだろうと疑問でした。その答えがあの花火のシーンにあったと思います。九龍に一番見えるところで打ち上げた5色の花火は、「もう日向会は関係ねえ。俺はSWORDだ。そしてこの喧嘩―SWORDの祭りは達磨通せや!!」という意志の主張だったのかなって。だから、最後の障壁突破を買って出たのも、彼にはきっとサポート役なんかではなくて、自分のやりたいことができる絶好のステージだったんだろうな。寝そべって花火を見る日向の顔は本当に清々しく気持ちよさそうでした。やっぱ、祭りのクライマックスには花火がなきゃあね!

全員の力をあわせ見事達成されたFINAL MISSION。政府の陰謀を暴き、官僚や馬場さん、エリちゃんに群がるマスコミの波にもまれながらそれを見守る琥珀さんと雨宮兄弟の姿は、『マッドマックス 怒りのデスロード』のラストで群衆の喝采を浴びるフュリオサを見送るマックスのような格好良さがありました。名もなき一人として注目を浴びるべき人の姿を見つめながら、内なる達成感に浸る男らしさ。そういえば琥珀さんを演じるAKIRAさんはマックスの吹き替えを勤めていましたね。

そして背をむけて並び走り去っていく「始まりの4人」の姿は、確かにSWORD第一世代の一つの物語が終わったことを言葉なく表現しています。

「今を生きた証が、これからの人生の糧になる」というコブラの台詞。エンドロールで、タケシに呼ばれ走り出すララとルードボーイズの足並みに重なるスモーキーの魂。時は抗いようもなく過ぎ、いつかこの街はなくなり、みんなと離れ離れになるかもしれない。でも共に過ごした時間や経験、分かち合った想いは確実に存在し、それを何度も積み重ねて、俺たちは次へ進み続ける。『FINAL MISSION』を見て、すべての始まりとなったあの言葉の本当の意味をやっと理解しました。


「永遠じゃねえ、無限だ」
ゆーあ

ゆーあ