140字プロレス鶴見辰吾ジラ

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.5
【静謐と孤独と粒子】

ポスターアートのシーツを被った“お化け“なるものからは想像もつなかい衝撃的で、悲しく、そして美しく、希望のようで、恐怖にも似て、喪失の物語で、そして…そして…

語り尽くせない。

異常とも思えるセリフや表情や時の流れの省略は、物語の文法そのものを喪失させ、ただ流れゆく情景や憂いのような寄る辺なさへの憤怒でもあり、知らず知らずに流れた記憶への観測をもって成立させている。

ゴーストという名からホラーであるべきところを喪失として設定し、そこに起こる様々な記憶の名残を観測し続ける主人公。冒頭の演出で、まさか!と思っていたことは明かされるのだが、そこに至るまでにセリフのない物語は、兼好法師の「徒然草」における川の流れに寄せた無常観であり、しかしその川の水も海へ流れて蒸発し、そして山々に降り注ぎそして流れる川の一滴になると壮大な循環のひとつのポイントとして思わせる「静謐と永遠の物語」と想像は旅へと誘われる。

重要な部分は徹底して映さず、そこへ各々が希望や憂いを見るかのように喪失した肉体の空虚なシーツの穴がどこまでも切なく、そしてこの物語に触れた者にメッセージを思い起こさせる。

衝撃的過ぎて言葉を失った。

失ってこその美しさだと…

そう思いたい。

膨大なときの流れの憂いを解こうとした中盤のセリフとベートーベンの重なりは、誰がためと空虚に舞うが、永遠を記憶する川の水の流れのように、我々の心の奥を剥き出させるような、ひどく切ない思いを作り出している。

傑作。静謐で美しく。