140字プロレス鶴見辰吾ジラ

彼女がその名を知らない鳥たちの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.2
”ツバメ”

こんなん泣くや~ん。

「あなたはこれを愛と呼べますか?」
と方向音痴な煽り文句で公開された今作。
「いえいえ、どっからどう見ても愛やろ!」
とついつい拳を握って熱弁したくなる本作。
「なになに?あのラスト!ダサ~。」
と最後の最後で肩透かすこの映画。

でも、ホンマに泣けんねんで~。

冒頭、関西弁でクレームを時計会社にぶつける蒼井優のトゲがあって愛に乾いた演技から、文句なしの主演女優賞!
まさに「覚醒☆おはガール案件!」

そんな彼女に女性目線ではしつこく一緒にいる、懲りずにずっといようとする彼氏を阿部サダヲが演じるも、これがキャリア最高の阿部サダヲ!顔や衣服は現場職がたたり靴墨のようの黒が落ちないものの、彼女への愛を健気に一心に、そして文字通りすべてを捧げられる覚悟に異質ながら本質を感じてしまう。

この2人の靴墨のように光り輝くワンダーランドを希望の光のように汚そうとするのは、暴力男の竹内豊と虚栄心と性欲真剣の松坂桃李。王子様のような仮面を被り、平然とエゴと自己の欲求にストレートな2人にすら、かまって欲しい蒼井優の寂しい心と甘い喘ぎ声がしっかりと脳裏に焼き付いていく。

しかしながら全体構図として面白いのは女性視点で、この汚れたワンダーランドを見ている点である。ワンダーランドと称したのは、客観的に見れば、登場人物は皆一応に下の下の住人に見えるわけだが、主観視点へと切り替えると、阿部サダヲは汚らしくも澄んだ心の持ち主のようにも、心底ダメ男のようにも映る。これが竹内豊や松坂桃李も同様で、本作では愛に乾いた蒼井優の視点で見れば、着実に輝かしく見えてしまっているのである。クライマックスに近づく中、阿部サダヲが蒼井優を引き留める描写も、客観視点で松坂側の部の悪い証拠が集まりつつも、それを否定して向かってしまう様子が哀しくもまっとうに思えてしまう作りになる。

女性視点での愛の渇きを満たしたい欲望をダブルターン的に前半に張っておいた伏線を回収しながら阿部サダヲの健気さと狂気的な愛の終着点に向けて歩み出すクラマックスは見事。みすぼらしいと健気を同居させながら、異質にして本質の愛の精神を絶やさなかった男の眼差しと、その狂気性を前に走馬灯のように思い出を(ここがダブルターン的なミソで女性視点であることも機能している)駆けめぐらせてのラストは素晴らしく、ついつい涙なんぞ頂戴させてしまった。

ただラストカットの方向が定まらず、行き場のなエモさで締めてしまったのはどうかと思ったが、常に異質にして本質の愛を歩んでいた今作の健気さは、間違いなく役者人の熱演にて昇華された。蒼井優はより病的に、阿部サダヲは真剣なシチュエーションでのコント的な立ち回りを、陰鬱めいた今作の刺激として味にしたところが圧巻。

客観的に「しょうもない・・・」
主観的に「泣いてまう・・・」

ピアノの旋律は静かに空を見上げましたとさ。