こうん

バトル・オブ・ザ・セクシーズのこうんのレビュー・感想・評価

4.3
まずはシネクイント様の復活おめでとうございますありがとうございます!
座席の後ろのほうで「なんだよシネパレスまんまじゃん」という心ない声が聞こえましたけど、そうじゃないよ、色々な理由で映画館をたたむことになったシネパレスから侠気あるパルコが“渋谷の映画館”を受け継ぐ形でシネクイント再開に至ったのですよ。
ミニシアターブームのころに上京してきた僕にとって、渋谷は映画の街だから(東京国際だって渋谷中心にやってたんだ昔は)、渋谷から映画館が減らずに済んだことでホッとしとります。
(とか言いつつ渋谷東映に入ったことがないです)

…ということで楽しみにしていたエマ・ストーン最新作はシネクイントにぶっこんできました。
Me too運動の流れに乗った”男女同権を訴える勇気ある女性が傲岸な男性至上主義者ぶっ飛ばす”的なオナハシかと思っていたのですが、シンプルに”心の自由を得る物語”だったのですね。
よくよく考えるとこのデイトン&ファリス監督夫妻の映画はいつもそうか。

生きていくということは誰かに決められた服を着せられたり自分で選んだ服を着たり、時には鎧をまとう必要もあったりと、そういうことなんですよね。で、動くのが億劫になったり汗かいたりするんだけど、我慢するんだ。
本当は裸やそれに近い身軽な恰好が一番楽で心地よいのに。

この映画はとある別々の女性と男性が、自ら着たり着せられたりした服や鎧を、戦いながら脱いでいく映画でしたね。
そして最終的にそこには、テニスに魅入られた肉体と自由な魂のみがある、っていうね。

クライマックスのテニスバトルではラリーが深まるほどに政治的だったり性差だったりのニュアンスが抜けていって、ビリー・ジーンとボビーのそれぞれの個人的な葛藤を克服するための戦いに純化されていく過程に僕はグッときましたよ。

勝利を手にしたはずのビリー・ジーンがロッカールームでひとり流す涙がまた複雑な涙で、それがさらに味わい深かったですね。
エンドロールで語られる、フェミニズム史を切り開いたビリー・ジーン・キングの、あまりにも苦しかったり怖かったり嬉しかったりの感情が交差しまくる、人間的な嗚咽でした。

いっぽうのスティーブ・カレル演じるボビー・リッグスも良かったですね。
テニスの才能を奪われれば賭博依存症の道化野郎でしかない男が、男として牙を取り戻すための戦いとして“Battle of Sexes”を画策する動機の根っこには共感するものがありました。ビリー・ジーンとのラリーの中で彼がかつてテニスに見出した矜持がどんどん溢れ出てくる様子が良かったです。
ちょっとカッコよく見えたくらい。どんなに子供っぽくて見栄っ張りで社会性がなくてクソ野郎でも、この人はテニスに魅入られている…!ていうね。
しかしねぇ、あの金持ちエリザベス・シューの存在のゴツイこと。

いろんな思いがあったり、ホモセクシャルとかヘテロセクシャルとかジェンダーとかフェミニズムとかミソジニーとか様々な立場の人がいて、それらがバランスよく描かれていたのではないでしょうか。その中心にブレないアラン・カミングがどっしりと屹立しているバランス感。
時流にのっとった映画ながら“正しさ”を押し付けるでなく、登場人物の感情旅行にいざなう、絶妙なニュアンスで貫いた映画と思います。
予告編から想像していたものよりずっとずっと面白かったです!(本当です)

そして、ビル・プルマンが超嫌な奴で最高でした。

あとわざわざ書くまでもないけど、エマ・ストーンが素晴らしいのはビッグ・バン以降の宇宙の真理です。
こうん

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