尋常でない熱量
柚月裕子の小説からして「仁義なき戦い」へのストレートなリスペクトであることは確かだが、映画版は原作の骨格を維持しながらも往年の任侠映画を彷彿とさせる痛快な作品に仕上がっている。
「凶悪」で垣間見た底の見えない暴力性、「日本でいちばん悪いやつら」のコミカルさ、「彼女がその名を知らない鳥たち」のドラマ性と、白石監督は集大成とばかり歴代作品の要素を散りばめている。
松坂桃李、ピエール瀧、竹野内豊とこれまでの白石作品に出演者が華を添えている。リリーフランキーと綾野剛が出てこないのが不思議なくらい。
圧巻はヤクザ顔負けの悪徳刑事の役所広司で、違法捜査上等、ヤクザを潰すためならありとあらゆる手段にでるとんでもない役を貫禄たっぷりに演じる。
これでいて憎めない役どころで、またもや彼のキャリアに新たな代表作が加わった。
映画の演出で特に秀逸なのが原作にはなかった養豚場。オープニングで観客の度肝を抜くのにも一役買っているが、大上が繰り返し語る台詞を端的に象徴していて面白い。
胸キュンなどなんだの軟派な映画が氾濫するなか、こういう映画が観たかった。