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孤狼の血のYACCOのレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.0
この映画を見に行くと知人に話した時「なぜ今やくざ映画なの?」と聞かれたのだが、見終わった時その知人に「やくざ映画ではなかったよ」と伝えなければいけないなと思った。私は見ていて「インファナル・アフェア」のような香港ノワールを思い出していたのだが、後で監督のインタビュー記事を読んだところ、韓国ノワールのような、もう少し端正な方向に振ったほうがいいんだろうな、と思ったとのこと。そんなに多くの韓国映画を見ている方ではないが腑に落ちた。いずれにせよ、観る前に思い描いてたような往年のやくざ映画とは一線を画する映画だったのである。

今作は、冒頭から思わず目を覆いたくなるようなシーンで始まる。そのシーンでどんなことが起こっているのかは音だけでも十分に伝わってくるものがあったので、迷わず目をつぶる。(そして目を開けたら竹野内豊がいた。彼は、やくざというよりは「彼女がその名を知らない鳥たち」のような顔がいいだけの悪い奴のほうが合っているなあとぼんやりと思う)とにかく、全編にわたり血や痛みの描写がリアルで、私は時折目をつぶってしまった。

広島を舞台にやくざの抗争を止めようとするマル暴刑事が主役の話なのだが、主役の大上刑事を役所広司、そして、大上と組む新人刑事日岡は松坂桃季が演じている。前半は大上が日岡とみている側も翻弄しながら話をひっぱり、後半は日岡が立っていくのだが、その展開に惹きつけられた。何かを成し遂げようとする人は多くを語らないのか、語れないのか。後半に近づくにつれ、前半にちりばめられていた謎や布石が明らかになっていき、大上という男が見えてくる。一方で、新人刑事日岡にも抱えているものがある。それを彼はどうするのか。
また、脇を固める役者も皆素晴らしくて、正直あげるときりがない。(中村倫也君は朝ドラで人気が出たとしてもこういう役をやめて欲しくないと思ったのは余談 笑)

ラストのまさに血で血を洗う展開は、凄惨にも関わらず、爽快感を感じずにはいられない。そして、全てが終わった時に襲われる寂寥感。

白石監督だからこそ作れた日本ノワール映画だったと思う。
監督いわく「こんなカッコいい男がヤクザにもいたんだよ」という映画にはしたくなかったらしいが、「こんなカッコいい男がいた」、見終わった時そう思えるノワール映画だった。
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