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ハートストーンの小のレビュー・感想・評価

ハートストーン(2016年製作の映画)
3.8
北欧・アイルランド製の思春期の少年を描いた青春映画。こういうジャンルって高評価な映画でも自分には響かないことがままある。本作でもそういう雰囲気を感じつつあったけれど、監督の考えを知って、その理由が見えてきたかも。

映画の公式ウェブにある監督の解説やインタビューがなかなか面白い。本作は監督の経験が元になっていて、監督は少年時代に見ていた世界がどんなものかを表現したいらしい。

<大人の生活は苦労が多く、ある意味で精神がダメになっている。(略)子供の頃の私は早く自分の人生をコントロールできるようになりたいと思いつつも、大人になりたいとは決して思いませんでした。>

そうは言っても、子どもが楽しんでいる自由な毎日は、いつか必ず大人の世界へと合流する。その合流点にたどり着くまでの間に子どもは<純真さの喪失と、自分が何者かということに気付いていく>。

ただ、純真さの喪失はともかくとしても、自分が何者かということに気付いていくのは簡単ではない。気付くためにはどうすれば良いのか。

<ティーンエイジャーにさしかかる多くの子供たちは、自分自身の人生の変化によって二度と元通りには戻らない傷を負うものではないでしょうか。でももしその時に自分に正直であり続けることができたなら、彼らは自分の本当のアイデンティティーに近づくことができる。自分はこうなんだ、自分で人生を選んでいるんだと思えるんです>。

監督のこの言葉が本作の核心だろうと思う。映画の中の少年たちは自分に正直であり続けたように思う。対して私自身はどうだったのか。自分の気持ちに正直にならないことが大人になることと、思ってはいなかっただろうか。

佐野元春の『ガラスのジェネレーション』の歌詞の刺激的なフレーズ「つまらない大人にはなりたくない」。たまに思い出しては「つまらない大人になっちゃったなあ」と自虐的に思う。何故そう思うのか。この映画によれば、それは自分に正直であり続けなかったから。自分で人生を選んでいるんだと思えていないから。

思春期の青春映画が今一つ響かないのは、つまらない大人の自分から目を背けたいからではないか。自分に正直であり続けようとする子どもたちと向き合うことを、無意識のうちに避けているからではないか。

そう考えると、とっくに乗り越えてきたと思っている思春期の青春映画こそ、悩める大人に必要なのかもしれない。大人になっても人は絶えず変化し、二度と戻らない傷をちょくちょく負い続けている。大人は思春期の青春映画を観て、自分に正直であり続けることを思い出したり、勇気をもらったりしているのかもしれない。

●物語(50%×3.5):1.75
・青春映画には違いないけれど、爽やか感とはほど遠い。重めな内容。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・狭いアイスランド社会で<解放される唯一の手段は自然の中に身を置くこと>と。なるほど。
・リアルだけれど、動物の死が身近で、人によっては不快かも。

●映像、音、音楽(20%×4.0):0.80
・自然の風景がとても美しい。
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