小一郎

彼女の人生は間違いじゃないの小一郎のレビュー・感想・評価

3.8
大切な人を失う、即ち自我の一部を喪失する物語はいくらでもあるし、その悲しみは自分にも理解できる。でもこれは自我が壊れてしまった人の物語。その苦しみを自分は知らない。

東日本大震災の津波で母を失い、原発事故によりいまだ福島の仮設住宅で父と2人で暮らすみゆきは市役所に勤務しながら、週末は高速バスで渋谷に向かい、デリヘルのアルバイトをする。一方で父は、仕事もせず補償金でパチンコをする毎日。

市役所の同僚、新田は両親が被害を免れた家に寄り付かず、弟と2人で生活している。みゆきと同じ仮設住宅に住む沙緒里は精神を病んでいるものの、夫は原発事故の処理の仕事で手が離せず、一緒にいてあげることができない。

監督の出身地、福島で暮らす人々を描いた物語。住む場所を失い、地域住民は離散。人々は自分の役割を見失い、家族も崩壊。自我は壊れ、何をしたらいいのか、どうやって生きていけばいいのか、落ち着かず不安が解消するメドすら見えない。

みゆきはそんな人達の象徴のように思える。彼女は見失った自分を取り戻すため、まったく新しい自分を作り上げようとし、知る人の誰もいないところで、震災前の自分なら決してやることのない仕事をやる。

自我は壊れただけで、無くなってしまったわけではないから、その試みはこれまでの自我と相いれず、失敗する可能性が高いだろう。それでも必死にもがいているうちに、何もイチから作り直さなくてもいいんだ、壊れた自我を修理すればいいいんだと気付くことができた。デリヘルの従業員、三浦がそのきっかけを与えてくれた。

被災地に暮らす女性がデリヘルでバイトをするというキャッチーである半面、理解が難しい設定だけど、その理由が見えてこない。重く、意義深いテーマなだけに、そこが残念。

●物語(50%×3.5):1.75
・ありそうで、なかなかない物語。何故デリヘルが腑に落ちればもっと良かった。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・みゆき役の瀧内公美さん、難しい役どころを相当頑張ったと思う。

●映像、音、音楽(20%×3.5):0.70
・福島の映像、何度見てもグッとくる。