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あゝ、荒野 後篇の小のレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
4.3
前篇に比べドラマの熱量が落ちてきて、メッセージ性が強くなり失速したように感じたけれど、メッセージそのものはとても熱い。

社会が都市化していくと、人とのつながりが希薄になり、映画の登場人物のように孤独に悩む人が増えていく。そんな時どうするか。この映画は臆せず1人で荒野(リング=新宿=社会)に飛び込んで闘えと、熱いメッセージを送る。闘うことで相手とつながれる。相手が自分と同じように孤独と闘っていることを目の当たりにして、自分が孤独でないことを知る。

リングで闘う新宿新次とバリカン健二。2人と同じく家族愛や恋愛で人とつながることができない不器用な人達が闘いを見守る。彼らは皆、荒野で、1人で闘うことで人とつながっていくしかない人達だ。そんな人達が2人に自分の生きざまを投影して涙を流す。

原作が刊行されたのは1966年。当時からは想像もできないほど、今の社会環境は変化した。一人当たりGDPは15倍前後に拡大し、豊かになった。インターネットの普及で手軽に孤独を慰めることができるようになった。

貧しく、スマホもない時代なら切羽詰まれば、荒野に出ていかざるを得なかっただろう。しかし今はそもそも切羽詰まることが少ないし、闘うための熱量が当時ほどに多くはならない。

だから何故バリカンが新次との闘いにこだわるのか、描かれているけれど、実感できない。2人の闘いを見守る不器用な人達に自分を重ね合わせることができない。

それでも自分はこの映画のメッセージが好きだ。メッセージを表現する2人のファイトシーンが好きだ。冷めた時代だからこそ、この熱さに憧れる。闘うことで実感する人とのつながりに憧れる。

憎しみが強い者が勝つのだろうか。彼の目は何を見ていたのだろう。喪失か、それとも憎しみからは生まれない、強いつながりだろうか。これはいつかまた味わいたい物語。

●物語(50%×4.0):2.00
・エンタメ色強めな前篇に比べると失速感は否めないけれど、メッセージは後篇の方が濃い。実は闘う2人を見つめる人達の物語でもあるのではないかと。

●演技、演出(30%×5.0):1.50
・やっぱりキャラが最高。「バリカン健二」のネーミングが最高過ぎ。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・前篇同様、迫力あり。
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