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死霊館のシスターのhorahukiのレビュー・感想・評価

死霊館のシスター(2018年製作の映画)
3.8
私的にジェームズワンの恐怖演出は以下の3点が肝だと思ってます。
・動と静をとことんまでに意識したカメラ
・「負」の特定数カ所での滞留・蓄積と観客への徹底的な意識づけ
・反復による土台の醸成と爆発
この3点をもって恐怖演出を芸術の域にまで高めた偉大なホラー作家だと思ってます。そんなわけで、もちろんジェームズワンは大好き!

そんで本作。監督が違うので当たり前ですが、ジェームズワンの恐怖演出が好きでそれを期待して見に行こうとしている方にとっては肩透かしなものになっている。あくまでスピンオフとして、本編(やその他オカルトホラー)とは方向性も恐怖演出も全くの別物だと思って見たほうが良いです。

モダンホラーだった『死霊館』『死霊館2』に対して、本作はゴシックホラー(もしかしたら本編もゴシックだと捉える向きもあるのかもしれません…なので私の勝手な意見です)。舞台はルーマニアにある古城を思わせるような荘厳な雰囲気が漂う修道院。ルーマニア+城+ゴシックホラーといえばドラキュラ。ドラキュラを初めとして、さまざまなモンスターが現在までに映画の中で登場してきたわけですが、その根底にあるのは異国イメージ。自分が住む場所とは文化や根ざす価値観等が何もかも違うという異国感がモンスターの存在に説得力を与える。「あそこだったら何か居てもおかしくないな〜」みたいな。そういう異国だからこそ成り立つ、モンスターが存在する舞台を整えたのは過去のホラー映画(特にハマー)への誠実さを感じました。

実際に本作はオカルトホラーでありながら、ドラキュラがそうであったようにモンスターホラーとしての性格も非常に強い。ヴァラクは悪魔なので当然スーパーパワーで精神的にいたぶってきたりもするのですが、『死霊館2』での印象よりもかなり攻撃的。それを許容させるのがルーマニアという異国であり、モダンホラーシリーズだった『死霊館』をゴシックホラーへと舵を切ったことの功績だと思います。そしてさらに徹底してるのはそこに住む人々から忌み嫌われ、山の奥へと踏み込んで行かないと辿り着けない場所を舞台としていること。しかも徒歩で。これは異界へと足を踏み入れる通過儀礼であり、異国感を極限までに高めてくれる。だからこそ、かつてのユニバーサルやハマーのモンスターのように、ヴァラクがド派手に攻撃を仕掛けてくることが許容される土台が形成されるわけです。非常に丁寧。

それと墓地・城内から漂ってくる雰囲気や空間の捉え方が、マリオバーヴァやロジャーコーマンの作品から感じるものと良く似ている。階段を下りるという行為にもしっかり意味合いを持たせてるし。彼らに影響を与えてるのはハマーホラーなわけなので、そっちからの影響と言った方が正しいですがね。

だから恐怖演出の方向性が本編シリーズと異なるのは当たり前だし、その他オカルトホラーと同列に扱うべき作品では当然ない。そもそも根っこにある志が違う。もちろん最近良く見かけるダメダメでポンコツな恐怖演出とも明らかに異なる。本作に漂っているのは、50~70年代の雰囲気とその時代へのリスペクト。もしかしたらジェームズワンは今後ゴシックホラーを撮りたいのかな。それこそハマーのような外連味たっぷりな。

そして『死霊館2』へのオマージュシーンもしっかりあって、ファンならニヤリとする場面も。そんで、キッチリ物語として繋がってくるラストはテンション上がりました。ロレインの能力は神から授けられたgiftedなわけです。人々を、そして愛する人を守るために。そこをうまく補完する良い繋ぎだったと思います。

世間的には、批評家からもこれ以上ないくらい酷評を受けてる本作ですが、スピンオフだから成し得るチャレンジ精神と、かつてのホラー映画へのリスペクトも持ち合わせた、かなり誠実な作品だと感じました。古臭いゴシックホラーを基礎として、その中にジェームズワン的な爆発力のある恐怖演出を持ち込んで両立させようとしてたんかも。そんで、悪魔を呼び寄せたのは人間の醜い行いだというところも良かった。全部がうまくいってたとは思えないけど、私はかなり好きです。ジェームズワン+ゴシックホラーを今後期待してます♫
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