ヨーク

ゴールデン・リバーのヨークのレビュー・感想・評価

ゴールデン・リバー(2018年製作の映画)
4.1
これは凄く良かったですね。良かったというのは映画としての出来もそうなんですが、何よりも俺の個人的な好き嫌いを基準にしたときにこの映画は凄く好き、ということです。
西部劇で兄弟バディ物でロードムービーとかそういう要素だけでも完全に俺の琴線に触れまくるんだけどそういったジャンル的な部分だけでなく細かい描写の一つ一つやもっとマクロな作品全体に通底されている雰囲気が最高に素晴らしかったです。
実は俺は本作の監督であるジャック・オーディアールという人のことは寡聞にして存じ上げず、彼のフィルモグラフィーの中でも前作の『ディーパンの闘い』しか観たことはなかった。それも本作が面白かったので監督名でググってみたら、あぁこのタイトル知ってるわ、というものだったのでぶっちゃけ監督のことは何も知らなかったといっても差し支えない。というか『ディーパンの闘い』と比べたらかなり作風違うよね。どっちが本来のジャック・オーディアール作品なのかは分からないが、何となくだけど多分本作のようなノリの方が珍しかったのではという気もする。いやもう『ディーパンの闘い』はめっちゃ骨太な社会派ドラマだったのに今回はゆるゆるなコメディ(たまにバイオレンス)だからね。正直「え? これ『ディーパンの闘い』と同じ監督なの?」と思いましたよ俺は。完全に俺の想像だが本作はなんか余り力も入れずに適当に雇われ監督として今まで撮ったことない感じのやつやってみるか、と気楽に仕事したような感じがしますね。
でもその抜けた感じが凄く良かったです。俺、西部劇は割と好きでそこそこは数も観てると思うんですけど、だからこそ西部劇というジャンル映画としては極まった、あるいは行き詰った感のある、言ってみれば閉塞的な映画世界の中でこんなに緩くのびのびとした作品を撮れるのかという驚きと喜びにやられてしまいました。いや別に奇を衒った映画というわけではなくて西部劇としての必要最低限なものはしっかりと入っていて、でもそれなのに全然窮屈じゃない素晴らしさがあるんですよ。
西部劇という映画ジャンルについてちゃんと語ろうとするととてつもない文章量になるので書きませんが、アメリカという国のアイデンティティとそれにまつわる諸々の解釈や再定義がなされたジャンルが西部劇だと思っているのですが、本作はそういう面倒くささから一歩抜けた部分があって何かいいですね。監督がフランス人というのも大きいのかもしれないです。
しかし笑えるんですよこの映画。ジョン・C・ライリーのキュートなこと! 弟との関係性も含めていいお兄ちゃんしてるんだよ、ほんとに。紆余曲折あったオッサン四人がもしかしたら明日にも死ぬかもしれないのに川沿いでキャンプしながらへらへら遊んでる姿とかも最高ですね。そういう遊びと死が隣り合わせにあるような感じは北野映画みたいな風情ですげぇ良かったです。キャンプシーンは作中で何度もあるんだけど焚火囲んで缶詰食ってるのとか凄くいいですね。あんまり美味そうじゃないんだけど、適当な会話しながらメシ食ってるのとかいいんですよ。
オチもイーストウッドなら絶対にこうはしないだろうなという感じで、でもちょっとウルっときちゃいましたね。俺は男兄弟がいるので特にそうなのかもですけどね。
いやぁいい映画だったな。不満といえばジェイク・ギレンホールがそこまで変人じゃなくて意外とまともな人物を演じていたことくらいかな。まぁジェイク成分はスパイダーマンで摂取できていたので実質的にはそこも不満ではないな。
大変面白かったです。
でもこれ都内一館だけなんだよなぁ。そりゃあ売れる感じの映画ではないと思うけどさ、もっと大作以外の作品を観れる機会が増えればいいのにな、と別に作品の感想ではないけどそう思いますね。
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