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英国総督 最後の家のumisodachiのレビュー・感想・評価

英国総督 最後の家(2017年製作の映画)
4.2
時間的にちょうどいい映画がこれしかなく、ビジュアルだけ見て「なんだかホンワカ平和系の話なのかなあ」くらいの気持ちで観たら、全然違った。本気度100%の社会派歴史映画だった。パッと見の印象と違いすぎるんだけど、なんでこのビジュアルなんだ?

1947年イギリス占領下のインド。最後の総督として、【ビルマのマウントバッテン】ことルイス・マウントバッテン卿が妻子と共にやってくる。当時のインドでは、イスラム教、インズ―教、シーク教など宗教同士の争いが激化しており、統一国家として独立したい多数派と、パキスタンとして分離独立したいムスリムとで意見が対立していた。王家の血を引く貴族らしい公平さと、温かみのある人柄で各指導者たちと心を通わせたマウントバッテンは、各地で悪化する虐殺を食い止めるため、分離独立の方向に急いで舵を切るのだが……。

インド独立前夜のシビアな状況と、インドとパキスタンとに祖国が分かれることで生じる悲劇を描いた意欲作。監督の祖父母が分離独立に際しての移動で大変な目に遭ったということで、当時の人々の気持ちに寄り添った内容になっている。政治的な動きはマウントバッテンと周辺の人々との葛藤で表現し、インドの人々の苦しみは、総督の邸宅で働く1組の男女の悲恋を描くことで象徴的に表現している。

豪華としかいいようがない英国総督の邸宅の様子と、民衆が暮らす町の描写の対比。そして、暴動が悪化してからの血と埃にまみれた画面。チリひとつない環境で交わされる会話によって全てのことが決定されるが、その結果として影響を受ける数億の人々は、命を繋ぐこともままならない状況に追い込まれる。分かってはいることだが、言葉の軽さと状況の重さが怖ろしい。そして、マウントバッテン夫妻はその落差を十分すぎるほどに分かっていて、苦しむ。

マウントバッテン卿とその妻は、偏見がなく友好的な平和主義者として描かれている。特に妻はその傾向が顕著で、前半は彼らの公平さと、他の英国人の差別意識とが浮き彫りになるシーンが続く。そんなマウントバッテン卿が選んだ道が、結果として数多くの不幸を生み出したということが悲しいのだが、仮に違う道を選んでいたところで、多くの犠牲が出たことには違いないわけで、その辺りは冷静なトーンで描かれている……というか、論点を別の次元に持っていく展開になっている。ちょっとスパイ映画っぽい流れで「おおっ」となった。(注:スパイは出てきません)

ラブストーリーパートは正直リスキーだったと思うが、チープにも転ばず、蛇足感も出ない絶妙な塩梅でまとめていたと思う。役者たちの抑え目の巧みな演技と、多くを語りすぎない会話が良かったのかもしれない。マウトバッテンパートがどうしてもセリフ量多めになってしまうので、ラブストーリーパートの(心の動きとしては)激しいながらも、見え方としては控え目な進行具合がちょうどよいバランスだった。そして、ずっと抑え目だったからこそ、クライマックスの激動ではまんまと泣かされた。

マウントバッテン卿の妻エドウィナは恋多きエネルギッシュな女性だったそうだが、本作では彼女の恋愛についてはノータッチ。でも、賢く魅力的な女性という面は十分に描かれていた。演じているのは『Xファイル』のスカリーでおなじみのジリアン・アンダーソン。かなり雰囲気変わったのね!気付かなかった。

良い映画です。オススメ。

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