ーcoyolyー

女は二度決断するのーcoyolyーのレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
3.9
血を流す。電話が鳴る。その後。この繰り返しが印象的でした。

主人公は普通の人です。エリートが偏差値50くらいと思い浮かべる実のところは偏差値60程度の水準の「普通」じゃなくてリアルに偏差値48くらいだとこんな感じという普通。平均値じゃなくて中央値の普通。日本だったらタバコふかしてパチンコ打ってキティちゃんのプリントされた服を着たティーカッププードルを家族でシャカシャカさせながら散歩しつつドンキで爆買いするのが娯楽というような普通。ライセンス物のドルガバの香水プンプン臭うようなファンシーとヤンキー感に彩られている普通。そういう文化レベルでこの家族に関してはお父さんは在日コリアンでお母さんは日本人で、みたいな境遇。

被害者や犠牲者には聖人君子を求められるけどそんなもん演じる度量がない程度の普通。普通の映画の主人公になるような、ずば抜けた強さも弱さもない普通。普通の人の動揺や堪え性のなさってこんなもん。

担当弁護士いい人なんだ。すごくいい人。だから使えない。エリートのいい人の価値観でこの人らに接するとこうなるという無能っぷりさらけ出してる。

いわゆる地裁トンデモ判決が出た時に自分の依頼人はそれが地裁トンデモ判決だと気づいてない、ということに気づいてない。それが地裁トンデモ判決で地裁トンデモ判決とはどういうものか噛んで含めて説明すればギリでこうならなかった。依頼人は普通の人だから普通の人にもわかるように説明したら理解する。法曹エリートの価値観で説明して話を進めようとしても伝わらない。法廷に縁のない生活を送っていた普通の人が突然異世界に放り込まれたらああなるよ。被告人の弁護士はクズいけど有能なのでそこで煽ってきた。それに対して有効な戦い方ができなかった。でも法廷戦術における無能っぷりが普通の人には判断できない。あの弁護士のエリート特有の鈍感さ・視野の狭さを私はよく知っていて頭を抱えてしまった。

この結末へと導いた主犯はあいつです。無能ないい人、無能な味方。これが本当に一番厄介。
「普通の人」は追い詰められたらこうなります。

私あんまり「普通の人」ではないので本人訴訟で原告として訴えて裁判やったんですけど、その戦いを進めるにあたって参考にしたのは裁判官心理が描かれている書籍でした。裁判で重要なのは相手を論破することじゃなくて判事が自分に有利な判決を出すということだから、極端な話、判事ウケさえ狙ってりゃいいんです。自分が判事にどう見えているかを研究してシミュレーションするのが大切なのにあの弁護士ちゃんとやってなかったんだよねそれ。彼女はこの弁護士を解任してもっと戦える筋の良い弁護士を雇って高裁で戦うのが一番良かったんだけど、そこまでの手筈整えられるのは「普通の人」ではないんですよね…センセーショナルな事件として報道されてたと思うので、ちゃんとしたブレーンがいたらな、と悔やまれます。
ーcoyolyー

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