カツマ

ラブレスのカツマのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
4.1
愛すること全てを虚しくさせる映画だった。眉間に釘を打ち付けられるかのように暴力的なピアノの音。それはまるで愚かな人間の恋愛ゲームの被害者に捧げられたレクイエムのよう。この物語では誰もが被害者のように振舞っているが、実はほとんどが加害者だ。被害者は愛という名の肥料を与えられずにただ1人泣きながら叫ぶ子供だけ。冒頭のあの声も出せずに号泣するシーンが忘れられない。あの瞬間のあの子の絶望は慟哭の果てを越えていたのだろう。凍える空がこんなにも冷たく感じられる映画も珍しかった。

ジェーニャとボリスはお互いに恋人を作り離婚寸前の夫婦。その関係は完全に冷め切っており、顔を合わせれば喧嘩ばかりだ。2人は息子のアレクセイをどちらが引き取るかで揉めており、ある夜の大喧嘩でジェーニャは息子を産まなければよかったと言い、ボリスは女親が預かるべきだと主張。その会話を聞いてしまったアレクセイは翌日家出して行方不明になった。
ジェーニャ、ボリス共に子供のことはそっちのけでお互いの情事に夢中。アレクセイが家出したのに気づいたのは喧嘩の翌々日のことだった。ボランティアの助けを得てアレクセイの捜索が開始されるも、夫婦は険悪なムードのままお互いに罵詈雑言を浴びせ続けていた・・。

全ての人間がそうではないだろうが、少なくともこの映画の夫婦は自分のことしか考えない自己中心的な人間の典型的なパターンだ。こんな親を持ってしまったら子供は不幸でしかない。もうハッピーエンドのカケラも見えず、終わり方もこの映画に相応しいものだった。
ラストのウクライナ騒乱のニュースは、現状のロシアを憂うズビャギンフェフ監督の放った精一杯の叫びだったのか。タイトル通り失われた愛の物語。愛されたかった子供の残骸のようなラストカットは、静かだが強烈だった。
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