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ラブレスのmatsuitterのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
3.3
最大のポイントは大人の傲慢な態度。それが引き起こす悲劇を客観的に描いた脚本が圧倒的で、素晴らしすぎて唸るしかなかった。

以下、ネタバレ。

主題は一番大切なものを失っても気がつくことすらない人間の我儘さではと思っている。ラストは突き放されるので、そこから監督の意図を考えはじめるわけだけど、終始一貫していたのは大人の自己中心さ。特に最後の戦争の報道を観ても無関心な態度、ロシアのジャージを着てランニングする姿は、当事者であるにも関わらずその重大さがわかっていないということ。いつもスマホを見続け、あんなに大切だった子供を失ったのは自分たちが原因だということがわかってない。

そもそもあの報道された戦争自体、国家の我儘な態度が本来守るべき命と日常生活を破壊するという象徴で、暗喩としてあの両親の態度に通じている。もし映画のメッセージが理解できないと宣う人がいたら、俺が言いたいのはそういう態度だよって言う監督の罵声が聞こえてきそう。そこが本質的にはつながってるんだよと。

子供が泣くシーンがあまりにも悲痛すぎて今も思い出せば泣きそうになる。年一レベルの悲しさ。今年はこれ以上悲しいシーンはもう観ないと思う。

バス停の後ろの闇を移すショットなど、意図が分からない部分があったのも結構好きだった。それらが暗示するものは希望なのか真実なのか決して答えは用意されていない。全部説明しないことで観る人に刺激を与え考えさせるのが個人的に映画の大事な要素だと思っている。

そして2点目、撮影面ではほぼ全シーンがノーカット長回し撮影。これがツボ中のツボ。完全完璧な構図で見とれてしまう作り込みです。

3点目、ほとんどのシーンが無音ながらも重要な場面ではしっかりと挿入されるBGMが非常にストイックに効いていて緊張感をMAXまで高めていた。ピアノと弦の音を冷たく響かせる非常にうまい演出でした。

余談。

私はとにかくアカデミー賞外国語映画賞っぽいシリアスドラマが大好きなので、今年はロシア映画の実力にひれ伏しました。こんな直球なヒューマンドラマを作り込めるっていうロシアすごい。
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