B5版

ラブレスのB5版のレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
3.5
現代社会に巣食う病を垣間見る映画。

マヤ暦の終わりが近づいた作中2016年はどんな年だったかな。
終末なんてものは特に信じなくとも、今の在り方の行止りの存在を何となくは認識していた気がする。
世間で尊ばれるアイテムは、真に自分を幸福にはしないのではないか。
気づいても戻れない、たとえ戻れても取り戻せない、足りない人間達が生み出す現代的悲劇。

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督作品は二本目。
作品には、乗り越えるべき課題やカタルシスなどが見当たらない。
各個人の心情に寄らない第三者目線を固定しながら、ただ救われない現実を全編通してなぞっていくことで、観客は映像を通して諦念を増幅させていく。
終盤のあの部屋のあれは、彼本人なんでしょうね。あそこでなおも被害者面で自分の罪から逃げられると無意識のうちに信じ込み、そして悪気なく風化させる夫婦の姿は、人間とは取り返しのつかない過ちを犯してさえ、変われない生き物の証左だといわんばかり。キッツイ…

前作でプーチンをここに出す!?と驚いた記憶があるが、今回もまあすごい。
ロシアとデカデカ胸元に書かれた服装の女が陰鬱なニュースに聞き、延々と同じ道を歩むだけのベルトコンベアを走らせる。
中々続けてのここまで直球な皮肉はお目にかかれん。明快な主義主張の監督だ。

この作品は単純に、現代社会へのアンチテーゼという上から目線の話でも無い。
主題かの様に見える親子の断絶、ネグレクトは一例に過ぎない。
暗闇に立ち尽くし、悲壮な形相で声も出せずに泣いている子供の顔はどんな観客の心も奪うだろう。
けれども見終えた傍から私達の関心は少しずつ失われ、色褪せていく。
作中夫婦のように当事者じゃないからといって、同じく遠い国のニュースのように聞き流し、そして忘れてしまうことに果たして罪はないのだろうか。

見ないフリをやめろとも、見た気になるのをやめろとも言われた気がして、心に爪を立てられた。
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