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ザ・スクエア 思いやりの聖域のshxtpieのレビュー・感想・評価

4.5
スウェーデンにおける、リベラルの、アッパー・ミドルの、白人男性の苦悩。あまりにもハイコンテクストで、しかもこの社会における勝ち組の、ぜいたくな悩みかもしれない。あるいは、この『ザ・スクウェア』という映画自体があたまでっかちにすぎるかもしれない。が、脚本の軽やかで、かつ容赦なくブラックなユーモアが、この映画をかろうじてその隘路から抜け出させている。

ヨーロッパというか、 EU がこの数年、大変なことになっているのは周知のことと思うが、「寛容の国」とうたわれたスウェーデンも、実は大変なことになっている。スウェーデン民主党という、ナチスの残党がつくったポピュリズム極右政党が躍進し、不寛容と排外主義が広がっているのだと新聞で読んだ(もちろん、背景には大量の移民の流入がある)。まるで他人事とは思えないが、『ザ・スクウェア』はそんな国で撮られた映画だということがわかっていると、理解が早いかもしれない。

とにかくブラックすぎる、多分に風刺的なショートコントを畳み掛けていく構造は、『ツアリスト(フレンチアルプスで起きたこと)』とまったくおなじ。それが単発のギャグではなく、物語のなかに有機的に組み込まれているのも。また、きわめて写真的(というのも語弊があるが)センスの、即物的な映像もまたおなじ。

しかし、『ザ・スクウェア』は、『ツアリスト』以上のアクチュアリティがある。だからこそパルムドールなのだろうし、この「リベラルの、アッパー・ミドルの、白人男性の苦悩」がヨーロッパの批評家たちから大変にウケるというのも、痛いほどよくわかるのだ(まあ、これは皮肉でもあるのだけど)。

『ツアリスト』からしてそうなのだが、リューベン・オストルンドには、男性性への鋭い眼差しがある。だが、そこには、どこか「男はつらいよ」というエクスキューズも感じられる。ぼくにはオストルンドのその態度はまったく責められない。それがなぜかは、彼の映画を見てもらえればよくわかると思う。オストルンドの「男はつらいよ」は、キュートなところでもあり、また、ある意味で急所にもなりうる弱さを秘めている。
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