平野レミゼラブル

ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

4.2
【陽気で陰気に、愛と皮肉を胸に秘め、悪党どもが正義を成す!!】
試写で一足先に観賞済み。
MCUはこないだ完走しましたが、DCの方は疎くてうっかりこれまでのスースクの予習もしないまま観に行っちゃったけど、まあそれぞれ独立して繋がりがないって言うし大丈夫でしょう。実際大丈夫だったし。
ともあれ、ディズニーに捨てられた(また拾われましたが)『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガンがそのタイミングでDCに拾われた意欲作ということなんですが、これがもう流石GotGでロクデナシどもを陽気に、そして後先考えずに大暴れさせたガン監督!って感じに楽しい!!ロクデナシを超えた“極”悪どもが、それぞれ協調性の無さを発揮して、まとまったヒーロー達のような連携すらない無軌道な動きぶりを発揮するのです。そのため事態がひたすら混沌に突き進みますが、不思議なことに最終的には綺麗にまとまっての大団円!!何という終わり良ければ全て良し感にして無責任っぷり!!それでも、ユーモアや凄いアクションに奇を衒ったオシャレな演出の数々を交えて、カオスな道中もまとまっていてしっかり面白いんだから凄いです。
そして今回、レーティングをR-15にまでガン上げした影響で、GotG以前の出世作『スーパー!』を思わせるブラックで過激な「陰」のジェームズ・ガンが復帰!!のっけから顔が吹き飛んだり、グチャグチャになった死体を映しまくるゴアグロを解禁するので、ジェームズ・ガン自身の「悪いコ」部分が前面に押し出されます。しかし、それでもノリはGotGで培った「陽」の雰囲気のままに進むので、惨劇を前にしても大味なB級スプラッタ的な楽しみ方でガハハと笑いながら観ることが出来るという。
ジェームズ・ガン監督作品を追いかけている人にのみわかる表現で形容するのであれば、「『スーパー!』の頃のジェームズ・ガンに『GotG』の陽気さをインプットさせた上でレーティングガン上げさせた『GotG』を撮らせた感じの作品」こそが新スースクです。
即ち陰陽一体型の究極のジェームズ・ガン作品!!内に秘めてたグロゴアナンセンスをひたすらハイテンションでぶちまけまくる極悪サイコー!!な作品というワケです。



のっけからバウンドさせたボールで正確に獲物を仕留めるハンティングの名手の老人「サバント」やら、名前が何の短縮系なのかさっぱりわからない「T.D.K.」、GotGのゴミパンダのような愛嬌もなければ意思疎通も出来ないし子供を27人殺してる狼人間(イタチ?)の「ウィーゼル」と言った濃ゆい連中が8人くらい登場し、チームを組んで独裁者の支配する島に上陸する任務が始まるので中々賑やかです。
さらにそこに別働隊としてスーパーマンを暗殺しかけた男「ブラッドスポート」率いる5人も加わるため、人数はそれこそ『アベンジャーズ』並に多いです。それぞれ原作じゃバットマンやフラッシュの宿敵だったりするようですが、映画じゃ全員ポッと出。そのため、登場人物を覚えるのに苦労するかと思ったら、それぞれちゃんとキャラが立ってたり、見せ場もあったりするので大丈夫でした。ここら辺は結構な大所帯であるGotGを巧く動かしたガン監督の腕の見せ所でしたね。
ハーレイの愉快な仲間達はブーメランやら槍を使うヤツが混じっているから、近代武器に身を包んだ兵士相手に活躍の場あるのか?って思ったけどちゃんとみんな活躍するよ!!『デッドプール2』のX-フォース以上に!!

僕はアメコミに疎いのと、スースクを一作も観ていないんでよくわかってないんですが、スースクって必ずしもハーレイ・クインが主軸ってワケじゃないんですね。
ハーレイも今回うんこしてたから集合に遅れたり、極悪仲間の中で姫プレイしていたりで目立ってはいるんですが、特に彼女が物語を引っ張っているわけではありません。要所要所で活躍はしますが、それは本筋とはあまり関係ないところでの大暴れだったりして、結果的にスースク全体の利益にはなってはいますが、まあ結果論。彼女は彼女自身の極めて不安定かつ気ままな精神に忠実に従って行動しているため、役割自体は予測不可能のジョーカー。正に元カレ(だよね?)に近しい感じの無軌道っぷりです。

なので、自然と物語をまとめることになるのは別働隊リーダー・ブラッドスポートということになります。そんな無軌道悪党どもの中心となる以上、彼はもう正真正銘の苦労人ポジションであり実質的な主役です。彼一人で戦闘、まとめ役、サポート、作戦立案、中間管理職、トイレ掃除、親としての役割、そして異なる正義のぶつかり合いまで背負いこむ有様なんで本当に大変。
言うて、彼だって悪党ですから、常に張り合ってくる便座マンこと「ピースメイカー」と一緒にキルスコア勝負に勤しむアレなことやらかしてはいますが……まあ、それでも娘の為に望んでもない役を全うする在り方はヴィランというよりヒーローのそれなのです。
ただし、ヒーローではないのでその着地は酷く不恰好なモノになる。アイアンマンやスパイダーマンのようにドーンと落ちてバーン!と登場することは出来ずとも、助けを求める声に導かれてドン!ドン!ドン!と順を追って大地に降り立つことは出来る!
きちんと段階を踏みながらもヒーローとしての着地を決めて登場する姿が堪らなく格好良いのです。流石、世界で一番セクシーな男に選ばれたイドリス・エルバが演じるだけあるぜ!!

そんな感じなので、自然とドラマもブラッドスポート周りで展開することになります。特に今回僕の一番の推しである「ラットキャッチャー2 」との関係性が良くてですね、ヴィランと言うには幸薄くて純真な彼女の保護者としてブラッドスポートが動き回っているのが良いんだ……!彼女はネズミを操るだけという割とハズレ気味な能力なんですが、ブラッドスポートの秘めたるとある真実を乗り越えて、交流を深めていく姿にニマニマしてしまう。
もう一人のヒロインたるハーレイは前述通り自立しすぎていて、いざ助けに行っても勝手に抜け出している有様な為、本当の本当に「俺が守護らねば…」となるのはラットキャッチャーちゃんの方なのですヨ。まあ彼女は既にネズミさんに守護られていますがね。チューチュー
どけ!!!俺はネズミさん🐭だぞ!!!

まあ、真面目にラットキャッチャー2、本作における真ヒロインであると共に、彼女一人で“極”悪党たるスーサイド・スクワッドを体現してしまう最重要人物なんですけどね。
溢れる可愛さに騙されることになりますが、そういえば中世におけるネズミの持つ意味って……と気付くと途端にエゲツなさが極まってくると言う。

無論、他のメンバーも個性豊かで良いですよ。
便座マン・ピースメイカーのアメリカ的正義の危うさは、それこそジェームズ・ガンが『スーパー!』で描いた風刺と同じで興味深いですし、ポルカドットマンの普段の頼りなさに反した能力のグロさは恐ろしい。
あとポルカドットマンは周りの人が自分をヒーローにするために虐待紛いの実験をしてきた母親に見えると言う精神障害があり、彼の視点になると太った中年女性が大量にポップするという笑って良いのかわからないことになりますが、これを後半で笑いと熱さの伴う場面に転換するのが良かったです。ガン監督、こういう笑いを熱さに転換させつつ、それでもちょっと笑えるって場面が本当に巧いんだ。
鮫人間キング・シャークことナナウェは癒し。下手すると味方すら飲み込もうとするけど癒し。数も数えられるし利口だから癒し。

僕は字幕版での観賞でしたが、吹替版のキャストも見てみると豪華かつ全員ハマり役で良いですね。

ハーレイ・クイン・・・東條加那子
ブラッドスポート・・・山寺宏一
ピースメイカー・・・大塚明夫
リック・フラッグ大佐・・・宮内敦士
キャプテン・ブーメラン・・・江川央生
ポルカドットマン・・・宮野真守
ラットキャッチャー2・・・悠木碧
サバント・・・立木文彦
ブラックガード・・・武内駿輔
T.D.K.・・・加藤亮
ジャベリン・・・日野聡
ナナウェ・・・玄田哲章

特にジャベリンが日野ちゃまってのがツボですね。本作におけるジャベリンってハーレイにとっての煉獄杏寿郎ですからね。日輪刀を槍に持ちかえて、自らの意志をハーレイにまで伝播させるその在り方は炎柱のそれと同等なのです。皆さんで頑張ってジャベリンを400億の男にしましょう!!


そんな個性豊かな極悪党が後先考えずに暴れ回るのが気持ち良いのなんのって!!独裁者の支配する島とか、最後の方は大怪獣バトルにも発展するとか、全体的に80年代の単純娯楽めいた大味さですが、細部に仕込んだ布石とかを巧く機能させているので作劇自体は結構テクニカルです。むしろあの時代の妙な明るさと、良い意味でイカれた大雑把さはクセになります。
どいつもこいつも決して後ろを振り向かずに突き進んでいくから最高の心地なんですよね。画面上や設定上ではかなり陰惨かつエグいことになってはいるものの、雰囲気が振り切った「陽」に傾いているので気にすることなく楽しめます。
まあ、ブラッドスポートさんの胃が破壊されますが。

陽気さ、陰気さ、可愛さ、エグさ全てを兼ね揃え、ゴアグロながらポップに、自分勝手でありながら仲間思いで、繰り広げるは銃撃戦から近接格闘、血が噴出したと思えば花が咲き乱れ、独裁者から大怪獣まで何するものぞ!という勢いのままに愛と皮肉を胸に悪党どもが正義を成す!!
あらゆる矛盾・二律背反ごっちゃ混ぜの闇鍋ですが、酸いも甘いも噛み分けた真ジェームズ・ガンが料理長のため、奇跡の如き味の調和となっています。面白いヨ!!

オススメ!!