小

おクジラさま ふたつの正義の物語の小のレビュー・感想・評価

3.8
2010年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ザ・コーヴ』。和歌山県太地町のイルカの追い込み漁を糾弾したこの映画をきっかけに、小さな町が捕鯨問題の世界的論争の渦中に巻き込まれた。

価値観が違うからと言って他国の文化を否定するのはケシカランというのが、捕鯨する日本側の最も言いたいことだと思う。しかし、本作では反捕鯨の団体・個人が抗議活動やネットでの情報発信を通じ、世界にアピールしているのに対し、捕鯨する側は「言ってもしょうがない」とダンマリを決め込んでいる姿が浮き彫りになる。

堂々と自己主張する欧米の価値観が中心となっている世界では、捕鯨する側の態度は自らを次第に不利な状況へと追い込んでいくのではないか。世界に向けてもっと積極的に情報発信し、自分達のことを理解してもらう努力をする必要があるのではないか、ということをアメリカ人に語らせている。

ここからは先は個人的な考えだけど、何故、日本人が積極的に主張しないのかといえば、自分を正しいと信じ自己主張すること自体を懐疑的に思い、嫌悪感すら抱いているからではないか、と思う。

唯一の神を信じる欧米に対し、神は八百万で、海から渡ってきた仏もキリストも受け入れてきた日本人は、自分の考え以外にも正しい考えはあると思っている。だから自分の考えが絶対に正しいと主張することが苦手だし、強い自己主張を、はしたないとか胡散臭いとか思ってしまうこともあるのではないか。

日本人は、捕鯨を唯一絶対の正義として主張することに抵抗を感じ、捕鯨、反捕鯨両方の立場があってもいいじゃないかと思っている。しかし、そういう考えは欧米の価値観では理解されにくく、反捕鯨があっても良いなら捕鯨止めなよ、ということになってしまいそうな気がする。

だから黙っているのが一番得策かといえば、そうではないだろう。思い出すのが映画『メッセージ』。そこでは価値観どころか認識の仕方すら異なる他者であっても、あきらめずコミュニケーションの努力を続けることが、共存しながら生きていくために必要なことであると示される。

唯一絶対の欧米の正義と、いろいろな正義が集まった日本の正義。強いのは欧米の正義だけれど、争わなくてすみそうなのは日本の正義。もし日本の正義への理解が世界に広がるならば、世界は今よりも平和になるかもしれない。

●物語(50%×3.5):1.75
・ これ1本で捕鯨問題について大体つかめる、と思う。ただ、内容はニュートラルな分、あまり面白くはないかな。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・アメリカ人のジェイの存在が大きい。うさんくさそうな世直し会のオジサンもいい味出している。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・音楽が思いの他、良かった。
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