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囚われた国家のneroのレビュー・感想・評価

囚われた国家(2019年製作の映画)
4.5
シャボン玉ホリデー世代だからだろうか、「Stardust」にはいつだってイントロだけでこみ上げるものがある。失われた愛に思いを馳せる男の孤独・・・古今この曲が使われた映画はどれほど多いことだろう。そして今日、自分にとって、ボウィの「地球に落ちて来た男」と本作が印象度で双璧となった。
各場面で使われるBGMとともに、音への計算の緻密さに後になって気づく。高揚感と緊迫感を同時に表現したマーチングドラムは特に効果的だった。

上位存在による支配に抵抗する人類という図式はよく使われる設定だが、本作ではむしろ、エイリアンが支配する地球は人間同士の軋轢を描くために用意されている。レジスタンスはエイリアンだけではなく、取り締まる側に回った人間をも敵としなくてはならない。闘争の歴史でもある人類史を俯瞰して、自由を求めて闘うことの普遍的な意味までも込められた脚本は実に緻密だ。
映像面でも緻密な計算が窺える。いわゆる”SF映画的”な描写はたしかに多くはない。しかし、湖に屹立する人型戦闘メカを画で見せるだけで、人類が侵略後の9年間どういう立場に置かれてきたのかをひしひしと感じさせる。エイリアンの造形も、ヒューマノイド近似のシルエットを与えながら圧倒的な異物感を醸し出す。ドラマの舞台もほぼシカゴの街区部分に限定しながら、”見せない”ことで世界を覆っている絶望感までを描き出す。高度なチラ見せ表現はじつに見事。映画はつくづく予算じゃないんだねえ。

モザイクのように全編に散りばめられたマクガフィンも多彩だ。ラファエルとガブリエル、大天使の名を持つ兄弟。コインに象徴される二面性。暗喩する”トロイの木馬”。不死鳥の新聞広告。生体デバイスによるフェイク。虚空から降り注ぐ怒りの雷槌。歴史教師と娼婦の顔を持つNo.1。物語の主体であるはずのマリガンさえ、その描写は点景のように折に触れて挿入されるだけ。そして、レコードプレーヤーが空転し、残された天使が世界に満ちた愛に気づく時、天にラッパが響く如く、未来への希望が無音で示される。
これはまぎれもなく上級のSF映画だ。公開館数が少ないためか淡泊にもみえる描写のためか、あまり評価は高くないが傑作。2回連続鑑賞してしまった。
とにかくジョン・グッドマンが激渋。彼の意志の強さと優しさを存分に味わえる一本だ。
「Light a match, Ignite a War」


翻って現実。意思疎通も不可能で有効な攻略法もないナノサイズの侵略者にはどう抵抗すればいいのだろう。「Stay Home」という超消極的戦略しかないのがもどかしい。
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