愛鳥家ハチ

トップガン マーヴェリックの愛鳥家ハチのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

世の中には絶対に映画館で観ておいた方が良い、否、観なければならない作品があり、本作は紛れもなくその一つだと確言できます。新作の鑑賞前は可能な限り他の方々のレビューや評価を頭に入れないで観たいというスタンスのため、絶賛の嵐とはつゆ知らず、正直なところ「まぁとりあえず観ておくか」という軽い気持ちで重い腰を上げつつ劇場に赴きました。結論から言えば観に行って大正解でした!

ーーデンジャーゾーン
 まず、前作視聴者全員が考えたであろう「デンジャーゾーンがいつ流れるか問題」について、「さすがに流れるよね?」「流れなかったらいやだなぁ」といった懸念を初っ端から見事に吹き飛ばして頂きました。80年代洋楽シーンのカッコ良い曲ランキングがあったら必ずトップ10に入るであろうデンジャーゾーン、ぐっと胸が熱くなり、目頭も熱くなる、フルスロットルな開幕で掴みは完璧と言えましょう。

ーー肉体美
 また、まさに暦が一周しようとしているトム・クルーズ様ですが、ビーチでのレクリエーションのシーンで完璧な肉体を惜しげもなく披露しています。あのレベルまで仕上げるとは本当にプロ、プロ中のプロ、まさにベストオブベストな俳優なのだと身体そのもので示してくれていました。その身体はたゆまぬ努力に裏打ちされた強い心の存在を可視化させます。そして、最早代名詞ともいえる地上を全力で走るトム、疾走するトムの姿にも勇気づけられます。肉体は永遠なのではないかと錯覚させられる程に!

ーー様式美
 次に内容は、水戸黄門といった時代劇を観ているような、「こうなるよね」という概ね予想通りの展開でした。しかし、予想を裏切らない王道のストーリーをしっかりと積み上げることでカタルシスを感じさせてくれる手腕には脱帽。基礎基本を要所要所で表現できれば秀逸な答案が出来上がるように、本作もまた映画の模範的な答案に仕上がっているといえます。

ーー水鳥の翼
 感動ポイントは随所に施されていましたが、特に、前作で殉職したグースの遺児ルースターがマーヴェリックを助け、その後、「父の代わりです」とマーヴェリックに謙遜してみせたシーンではガツンと涙腺をやられました。ルースターと父代わりのマーヴェリックは、姿こそ見えねども、確かにグースと共に飛んでいたんだなぁと。

ーー総評
 本作は、サブスクが人口に膾炙し、映画館の相対的な役割がやや低下しつつある現状にあってもなお、「映画館っていいな」と再確認できる作品といえます。いくら無人機が台頭しても現状では熟練の有人飛行には敵わないように、自宅のテレビやスマホでは再現が不可能な、映画館でしか表現できないことがあることを示してくれました。将来、自宅での映画体験が、映画館でのそれを上回るような技術革新が生まれる可能性は確かにあるでしょう。しかしそれは劇中でマーヴェリックが言うように「今ではない」ことは確かです。本作は観客のみならず、映画館を運営される方々をも大いに励ましてくれる作品とも言えるのではないでしょうか。
 本作のプロデューサーとしてトム・クルーズ自身も名を連ねているところ、名製作者・名監督でもあるクリント・イーストウッド大先生の跡目を継げるのは、トム・クルーズをおいて他はないのではないかと思わされました。ここまでの作品を世に出せる力量に感服した次第です。

ーー余談
 出撃前、甲板にせり上がろうとするマーヴェリックに対し、“It's where you belong.”と声をかけるシーンがあったと記憶しています。字幕では「期待してるぞ」と表記されていました。英語を直訳すれば、「君の居場所はここだ」といった趣旨の表現だと理解しているのですが、要は「お前のいるべき場所は教壇の上ではなく、大空なのだ」ということを伝えたかったのだと思います。敢えて昇進せず現役で飛び続けるマーヴェリックの生き方を全肯定した激励の言葉とも言えるでしょう。この点、「期待してるぞ」という意訳からはそのようなニュアンスは感じ取りにくいのですが、前後の文脈を実にスムーズに繋いでくれる簡潔な表現であることも分かります。唸る意訳に字幕の奥深さを垣間見た気がしました。
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