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寝ても覚めてものRのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.5
かなり賛否両論なので見てみてとオススメされまして、日本のラブストーリー苦手なのですが、見てみましたら、なるほど、ただのラブストーリーではない、気持ち悪い違和感が延々と続く、異様な雰囲気の映画でした。まずはじまりからおかしい。大阪の芸術写真展で、主人公の朝子がたまたま横を通り過ぎる鼻歌を歌う不思議系イケメン、麦(バク)。美術館を出て、同じ方向にむかって進むふたり。ふと、立ち止まり、振り返った麦に、突然キスされスタートした恋愛。朝子は衝動にしたがって恋人になった。何を考えてるのかまったく読めない麦のこと、そんなに好きになった魅力とは何なのだろう。僕にはさっぱりわからない。イケメンだから? 謎めいてるから? 純粋に衝動で動く野生的な雰囲気? 危なっかしさ? だが、ある日、とつぜん、麦は、靴を買ってくる、と言って出て行ったきり、姿を消してしまう……数年後、麦と瓜二つのリーマン亮平が会議後の会議室を片付けている。そこに朝子は現れる。彼女は隣のビルの珈琲店で働いており、配達していたコーヒーのポットを回収しに来たのだ。あまりに麦に似ているため絶句する朝子。その日から朝子のことに心惹かれる亮平は、少しずつ朝子に近づいていく。一方、朝子は麦への気持ちが断ち切れないのか、亮平とは関わり合いになりたくなさそう。しかし、やがて共通の友人になってしまった人たちとの付き合いを通して、ふたりは恋人同士になっていくのだが……という流れ。まず冒頭の麦とのエピソードを見て、まぁそんな始まりの恋愛もまったくなくはないだろうとは思うのだが、麦の気持ちや行動の理由が読めない以上に、主人公の朝子自体が、何を考えてるのだかよくわからない。ただただ状況に流されているだけとは思えないのだが……亮平と付き合い始めたのが、彼が麦に似ているからだというのは絶対あるだろう……だが……しかし……と真面目に考え、中盤以降は、二人だけの関係を少しずつ重ねていって、だんだん麦とは切り離して亮平のことを愛し始めている様子。それと同時に、彼らの交友関係も描かれていき、こちら側はごくごく一般、普通の日本的友人関係からの恋愛、結婚、出産の流れが描かれていく。その様子が一見ものすごく何気ない日常のように描かれてるんやけど、僕はここで非常に気持ちの悪い、違和感というか、不穏なムードをつねに感じていた。あるひとつの疑問が僕の頭のなかをずっと支配していた。その疑問とは、この人たちはいったい何のために生きているんだろう? ということである。一見みんな幸せそうに見え、実際ある程度幸せではあるのだろう、一緒にテレビを見て、買い物に行って、友だちと集まって、遊んで、年に1回東日本大震災の復興援助に行って、非常に充実しているように見える。だが、彼らがいったい何の目的でそういったことをしているのか、全くわからない。みんな心の奥底で、本当はどう思ってるのか、何を考えて、何を軸に行動しているのか、一向に読めない。それが本作全編に流れる危なっかしい不穏なムードの正体ではないか、と思った。麦に対する思いが消せないまま、麦の存在がそこにずっと存在している不穏、とも考えられるが、それは、本当はもっと人間として根源的な、切実な問題を浮き彫りにするための、仕掛けなのではないだろうか。とりわけ朝子演じる唐田えりかの得体の知れなさは闇が深く、日本人形のような黒目がちな目と顔立ちが、途中から不気味にしか見えなくなってくる。そして、本作最大の衝撃!!! あのシーンの恐ろしいこと!!! 怖すぎて思わずこぉぅわ!!!って声出してもた。下手なホラー映画より断然怖い。その前にももうひとつ恐いシーンがあり、こっちも鳥肌総立ち。まさかこんなゾッとする展開になると思ってなかったので、意外性がすごかった。終盤になると、やや普通の恋愛映画よりに収斂していき、やっぱ人の恋愛感情ほど移ろいやすいものはないし、だからこそ、無理矢理にでも、永遠を前提とする結婚、という制度が存在するんだろうな、と思った。人間と人間が本当の意味でソウルフルな信頼関係を作る。その果てしない遠さをしみじみと感じさせるエンディングだった。さて、本作最大の魅力。それを僕はまだ語っておりません。本作最大の魅力、それは、東出昌大の演技です。素晴らしいです。麦のまったく現実味のない存在感と、亮平のいかにも今風な人間くささ。そのふたりが別人でありながら、朝子の中で渾然一体となり、ふたりともがドッペルゲンガーのように、正体を明かさぬ亡霊としてそこに存在する不思議。それを体現する容器として、最高の演技を見せてくれています。最高でした。さて、そんなこんなを考えながら見てると、なぜ東日本大震災や、もう一人の登場人物、岡崎くんの顛末が語られるかも、ぼんやりわかってくるような気がします。いやー、おもしろかった。恋愛映画という皮をかぶりつつ、恋愛を通り越して、生きるということ自体の寄るべなさをホラー映画のように描いた、非常に興味深い映画でした。やっぱ人間とは、大いなる生きる目的を持って、気宇壮大に生きないと、どんどん小さく小さく生きるしかなくなっていくんだなーと、深々と感じさせられました。今後も頑張って生きたい。そう思いました。
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