140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ビール・ストリートの恋人たちの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.2
【彼らが彼らであるために】

2人の黒人カップルを切り取った美しい描写と優しい音楽の抱擁。過去の幸せと現在の困難が立ちはだかるビールストリートで口を閉ざした試練が行く手に重くのし掛かる。恋人2人の正面を、困難に直面しても奔走する周囲を切り取ったモノが美しさであり、溶け込むことを阻まれたことであるのが並列して描かれ、過去の進行と現在の進行が中盤以降で相容れるところは映画的面白さ。黒人として生きることの残酷さを友人と語り合い、その体温が急激に冷めるシーンは背筋が凍る。そこからまた談笑が始まるところに濃縮された映画的体温が切ない。ファニーな口ぶりと幸せを求める存在につきまとう人種差別の闇。それでもこの街に飲まれ生きることの美しさはなおも強調され続ける。切り取られた彼らが最後には景色に溶け込んで終幕するエンディングに脚本と映像、そして音楽の外装の中に確かに脈打つ体温がこの映画のすべてだったと思い知らされる。