のん

スリー・ビルボードののんのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.4
行き場のない感情の出口

今年のアカデミー賞でおそらく作品賞を獲るであろう「スリー・ビルボード」は、哀しさを纏った喜劇であり同時に可笑しさで包まれた悲劇でもある。


さびれた3枚の看板に警察へのメッセージが掲げられることから始まる物語は、フランシス・マグドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルの3人を中心に予想外の展開への転がっていく。


乾いたユーモアと、微妙に噛み合わずボタンの掛け違いが続く登場人物たちの掛け合いはコーエン兄弟の作風にとても良く似ていて、本作がクライム・サスペンスと云われる所以だろう。


そのコーエン兄弟の「ファーゴ」で強烈なインパクトを残したマグドーマンドが、娘をレイプされ殺された母親を熱演。決して派手さはないが、娘が奪われた哀しさと、怒りの矛先を誰に向けていいのかわからないやり切れなさを見事に体現。


最近ではお猿の軍団とバトルを繰り広げていたMr.タフガイことウディ・ハレルソンは彼のキャリアと見た目から想像もつかない繊細な人物を演じる。これがまた抜群にはまっていて、衝撃的な中盤の展開以降は彼の存在が作品全体を包みこむ。


差別主義者でダメ警官を演じるのはサム・ロックウェル。前半の無軌道っぷりが後半の活躍のフックになっていて役者の力を感じる役だった。



3人のキャラクターはそれぞれやり場のない感情を抱え込む。怒りや哀しみを誰に向けるべきなのか、もがき葛藤する。
マーティン・マグドナー監督はそんな彼らに安易に作中で答を提示しない。

提示しないが全ての感情を丁寧にすくい上げて重層的なドラマを紡いでいる。
のん

のん