こうん

スリー・ビルボードのこうんのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.7
cuntもNGワード。

登場人物全ての言動や表情が愛おしく、彼と彼女のブランコのように揺れ動く感情旅行の行き先に想いを馳せると、正体の知れない涙が流れて来ます。

僕は同じ中西部を舞台としているアレクサンダー・ペインの「ネブラスカ」が大好きでなおかつ傑作と思っているのですけど、それと比肩するくらいに巧みに作られ愚かで愛おしい人間的真実に叶った映画になっていると思う。

そして作り手たちの清濁併せ呑んだ人間への信頼に立脚して作られているので、とても心地が良いし、なんでしょう…様々な感情に関わって生きていこうと思える感じになります。

サム・ロックウェル演じるディクソンがウィロビーからの手紙を読んでいるシーンは、その背後で起こっていることとその視覚表現と、そこで前傾化するディクソンの内面が激しく燃え上がって、あー…!と叫びたくなったし、その後のディクソンの行動やその顛末の数々にはもうね、泣くしかないっすよ。

ホント、シナリオが良いと思いました。
人物が出て来て二言三言でもうどんな人か(とりあえずは)解る台詞の応酬とか上手いし、キャラクター造型と関係性の綾と時間軸の構成が巧みだし、娘の事件がマクガフィンに留まらずかといってミステリーの種にもならずドラマとしての推進力になっていて、意外な展開も奇をてらわずキャラクターに適った違うドラマを展開させていて、それでいてテーマを観客に手渡しするような味わい深いラストが、もう、素晴らしいとしか言いようがないです。

演出も映画的な具象表現が横溢していたし、いかにも保守的で退歩的な中西部を切り取るべく映画に奉仕する撮影も素晴らしいし、特に中盤の長回しが表現するあるキャラクターの鬱屈した狂気!

それに役者さんたちも良かった!マクドーマンドさんのマカロニウエスタン的復讐の鬼的な佇まいがカッコいいしその中の弱さが露出する場面も良かった(鹿!)。
サム・ロックウェルは…もうアカデミー賞とるんじゃないですか。こんなに下衆で馬鹿で下品で直情的で、なおかつ弱さと人としての尊厳をブチあげるキャラをよく破綻なく表現したなと、快哉を贈りたい。
その他ウディさんをはじめ、本夫やカッコいいディンクレイジさんや、バカ女×2名や、端役の人まで血が通っていて、映画を豊かなものにしていたように思います。

久しぶりにこんなに豊かな映画を観た気がします。鑑賞後はGoogle mapでミズーリ州エビングを探してたもんね、架空の街なのに!

とにかく3枚の看板をどういう風に撮っているか、よく見ると面白いと思います!
オモチロイ!
こうん

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