成川ジロー

ブリグズビー・ベアの成川ジローのネタバレレビュー・内容・結末

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

存在のそこにあるがままを真っ直ぐに肯定する圧倒的な優しさに満ちた大傑作。ここまで素敵な優しい映画はなかなか無い。

幼少期に誘拐されて変なクマの番組のみを見せられて育てられてきた男の話とだけ聞いていて、もっとサイコなドタバタコメディだと思っていたのだけれど、見て作品の優しい視線に驚かされた。主人公がブリグズビー・ベアを見る視線、誘拐犯両親が主人公を見る視線、本物の両親が主人公を見る視線、仲間が主人公を見る視線、そしてブリグズビー・ベアが主人公を見る視線、本当に全ての視線が優しい。愛がある。
そしてなにより説明が難しいんですが、本筋の「人生の全てだった作品が誘拐犯によって作られたものと知り、騙されていたと嘆くのでなく、その存在する作品そのものの質を悪と決めつけず正しく認識し、世界の広さを目の当たりにして自分でもその作品を(超える作品を)作れると知って歓喜する」シーンに本当に心を打たれて思わず拳を握りしめガッツポーズしていました。そう来たか!最高!!自分は自主映画を作っている人間なので、満面の笑みでスクリーンを見つめていました。

主人公が一般社会に戻るリハビリの手段として描かれるのが同じものを好きな仲間(オタク仲間)、ものづくり、想像力の爆発、っていうの最高ですよね。好きな人たちと好きなものを一緒に作る。こんなに楽しいことなんて無いよ!最高なんだよ!

仲間たちも皆結構良くて、一番はやっぱりあの刑事!ベタだけどあいつ最高だよ!!ちゃっかりブリグズビー・ベア見ちゃってちゃっかり出演もしちゃってるもう一人の刑事も美味しい!!

この作品全体に満たされている肯定感について思うところあって、作品の作者が何かやらかすと作品を楽しめなくなる問題ってあるじゃないですか。どうしても。『リメンバー・ミー』なんかは本当に良い映画なんですが、悪役が歌った歌が盗作で全否定されててそこにフォローは無くて、「あれ?この人の歌唱力についてはどうなの?作詞作曲が別の人なだけで、この人の歌声で感動した人は絶対いるのに、その感動をも否定しちゃってない?」って引っかかる部分があったんですが、この作品はその問題に対して一つの答えを出してるというか、「生まれた作品は生まれた時点で作者の手を離れ独立していて、その良し悪しは作者の人格や犯罪歴なんかとは関係無い」という立場に立ってる。実際そういうもんじゃないかとも思います。今正しい人間がずっと正しい人間って訳じゃないし、変わるものだし、四六時中常に正しいという性質を保てる人間なんていないしね。この作品だと結局誘拐犯も(特にマーク・ハミルの方は)やったことは許されないけど根っから悪人じゃないし。
個人的には前に大好きだったバンドの情報を久々に調べてみたらボーカルが1歳の女児に対する性的暴行を含む、13件の性犯罪容疑で起訴れて解散してたっていうの知って大好きな楽曲なのに複雑な気分になるっていうのがあるので、この作品の答えが完全無欠な答えだ!とは感情的には言えないですけどね^^;
一つの答えとして、素晴らしい。

っていうか、ブリグズビー・ベアを作ったこの親父は表現力行動力を考えると稀代の天才だろ!笑 こそこそしながら長い年月ワンマンで作り続けられるレベルじゃねーぞ多分!!笑

今年はドラマが良い映画が沢山あってベスト候補沢山あるんですが、『ブリグズビー・ベア』も『ガチ星』や『レディ・バード』に並んで今年のベスト候補作品になりました。
近年で言えば『シング・ストリート』に匹敵するレベルで素敵で可愛い大好きな作品。
製作にフィル・ロードとクリストファー・ミラーの名前がありましたね。この作品の暖かさ、肯定感は傑作『レゴ・ムービー』に通じるものがあって、なるほど!ってエンドロールで納得しちゃいました。

同じ仲間の友人の一人と劇場で見れて良かった。
成川ジロー

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