成川ジロー

ボーはおそれているの成川ジローのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

3時間という尺に「拷問」とか「ずっと続く悪夢」とか、見た人のおそろしい感想を沢山聞いていて、『ボーはおそれている』を見るのをおそれている状態だったんだけど、アリ・アスター監督は大好きだしいつかは見るんだからと覚悟を決めて見てみたら、思っていたよりもずっとすんなり最後まで見れて、割と自分はアリ・アスター耐性が付いてきたんだな感じた。まあそもそも『ミッドサマー』にしろ『ヘレディタリー/継承』にしろ、とにかく質が良いという事実が根底に絶対あるから見るに耐えうる作品ってことなんだと思う。ただ、今回は前2作よりも絶対にわかりにくい作りになっているので、自分の理解が及ばない部分が多々あって置いて行かれてしまった感はあった。一応気を失う度に舞台が変わる感じなんだけど、正直どの部分が現実でどの部分が妄想なのかとかは全然わかってない^^;

第一幕。
最初はただただ面白かった。住んでる場所のあまりの治安の悪さにメチャクチャ笑ってしまったし(特にミネストローネ入れ墨男が鮮烈なキャラクターで、全力ダッシュ帰宅勝負なんて笑いを堪えられなかった)、その後色々あってやべえやつらがワラワラと家に押し入っていくシーンも、天井男も、vs全裸殺人鬼も、警察に助けを求めるシーンも、笑うなという方が無理。ここらへんは完全にコメディ映画になってたと思う。ボーと他人との食い違いがかなり不穏な空気を醸し出していたけど。

第二幕。
ロジャーとグレースの家からは一気に不条理な展開だらけになってアリ・アスターっぽさがでてくる。この先何が起こるのか、どうなるのかずっと気にならせる。あらすじを読んで死んだ親に会いに行く地獄のロードムービーなんだと思ってたんだけど、脱出劇に近い。目的地はあるんだけど旅って言うか、やばい奴らに囲まれた状況でどうにか辿り着け
って感じ。ここはもうグレースが密かに逃してくれようとしているような発言があったり、未来まで見えちゃう謎のトゥルーマン・ショーチャンネルがあったり、特に娘のトニが一度どこかに連れ出したり、お前はテストに落ちたみたいな発言があったり、ペンキ一気飲みだったり、行動が何一つわからず大混乱でした。滅茶苦茶。

第三幕。
その後一応の脱出に成功して木にぶつかって失神、着いた先は謎の演劇コミュニティで、この作品にとって凄い大事な内容の劇中劇をやっているように見えるんだけど、自分は攻撃力的には劇中一番やばいかもしれないジーヴスが全速力で追ってきている事が頭から離れず、全然演劇に集中できなかった笑

第四幕。
追跡装置での失神からはすんなり家に着いちゃうんだけど、ここから先全部現実じゃないとしても自分は納得しちゃうと思う。今まで関わった人全員社員で会社の作った住宅、会社の製品で暮らしてずっと母親の監視の中にいたみたいなことになるんだけど、自分の中では全体の整合性のある答えは得られず、ただ起きることを見ていくだけになっててその中でもSEX硬直死、屋根裏の親父っぽいのとアレ、そこに乱入してくるジーヴス、意味ありげだけど整理が付かないものがまたガンガン追加されて、半ばパニックでした。

第五幕。
脳内自分裁判。エンドロールで劇中の観客と同じように「もう終わったから帰っていいよ」って言ってくれてるのかも知れないけど、まだ何か起こるんじゃないかと最後まで不安なままでした。船の壊れ方もいちいち不穏なんよw

タイトルの『ボーはおそれている』、母親の部分はなんとなくわかるんだけど、全体的に何をおそれているのか、わからないままとにかくおそれている、とにかく不安。なんだかわからないけど怖いことが沢山起こっておそれる。この映画でボーが味わってるその「おそれ」を3時間分追体験させられたのかもしれない。ホラーでは無いけど途中から全然笑えなくなるからコメディでもないと思うし、なんかもうアリ・アスターって言うジャンルなんだろうな。天才。頭おかしい。大好き。
成川ジロー

成川ジロー