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女の一生のNMのレビュー・感想・評価

女の一生(2016年製作の映画)
3.4
この作品を一番おすすめしたいのは、
モーパッサンが好きな方。
と、言えるぐらい、作風が反映されていて、
まさに読書をするように観ることのできる作品。

著者独特の、
急に牛刀でぶった切るような終わり方は、
この映画でも再現されていて、
モーパッサンファンの期待を
裏切らないものになっていると思う。
純文学やフランス映画が好きな方などに
向いていそうに思う。

明解なストーリーや、次々と起こる大事件、
驚きの結末、
などを勝手に期待して観てしまうと
つまらなく感じてしまうだろう。

とても大人の、ひたすら現実的な展開。
原作か、モーパッサンのほかの短篇でもいいので、
一つでも読んでおくと
映画は見やすくなると思う。

作中時々流れるデュファイらしき古楽(同じ2、3曲ぐらいを繰り返す)が、
まるで作品の名刺のように、
素朴で飾らない撥弦の旋律が
言葉に表しがたい人生の悲哀を、
ぴったり寄り添うように表現している。

ついもっと劇的な音楽を足したくなるが、
それをしなかった制作陣は、
この作品を高貴で静謐にし、
著者への敬意を表すことに成功している。

ケチャップやマヨネーズはなし、塩のみでどうぞ、
といった感じ。

当時を再現した衣装が美しいのだが、
ただひたすら綺麗なのではなく、
汚れたり古びたりしていくからの美しさを
見せてくれる。
冒頭、
ジャンヌのドレスが畑仕事でドロドロになる描写は、
彼女の行く末を投影するかのように
強調されている。

また、
ノルマンディの自然も四季を通じて美しく、
春の緑から冬の荒波まで、
まさに四季を繰り返す人生そのものを表すよう。

観終わった後余韻が残り、
考えさせられる作品。

人生を、全て素晴らしいとは言わず、
半々とも言わず、
もし9割は苦労だとしても
1ぐらいは良いこともあるでしょう?、
と訴える。

楽しいことばかりでなくとも、
ひとときでも輝く瞬間があったなら、
その人生には意味があると言えるのではないか。

常夏のような人生のひともあれば、
冬がいつまでも続く人生も、人それぞれ。

だが、
春は例え一瞬でも、誰にでも訪れるのでは、
と示してみせるような、
あの有名な最後の台詞で終わる。
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