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ザ・シークレットマンの小のレビュー・感想・評価

ザ・シークレットマン(2017年製作の映画)
3.8
米ニクソン大統領が辞任に追い込まれる引き金となった「ウォーターゲート事件」。その全容と内部告発した“ディープスロート”ことFBI副長官マーク・フェルトの実話に基づくサスペンス。

ニクソン政権下で「ウォーターゲート事件」よりも前に起こったベトナム戦争を分析・記録した国防省文書のスクープを扱った『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』が公開していて、こちらが政府(権力)対マスコミ(国民)の対立関係となっているのに対し、本作は政府対官僚で権力内部の争いという感じ。

ウォーターゲート事件について知識がないと話が分かりにくいけれど、無表情なフェルトの心情が伝わってきて、結構面白かった。自分的物語のポイントはフェルトが何故、すべてを投げ打つ覚悟で内部告発をしたのかということ。

彼はFBI捜査官としてのスジを通すことを良しとし、ホワイトハウスにとっては物分かりの悪い人だったようだ。しかし、それは正義のためというよりも、フェルトにとってのFBIが自らの家族を犠牲にしてまでも尽くしたきた大切な組織だから。FBIがニクソンによって汚され、壊されていくのを黙って見ているわけにはいかないということだろう。

よって「権力には屈しない--相手が大統領であっても」というその動機に、民主主義を守るといった信念や大義名分は感じられない。彼の類いまれなる自己犠牲精神はもっぱらFBIを守るために向けられるから、『ペンタゴン・ペーパーズ』のようなスッキリしたカタルシスはない。

とはいえサラリーマンのオジサンにとっては、それなりに納得の話。経営トップが生え抜きではなく外部から招へいされ、これまでの方針がガラリと変わるなんてよくあること。現場の人たちはそのたびにヤレヤレと思い「すまじきものは宮仕え」の意味を実感する。

新たな経営者に不満を抱いても、普通はまあしょうがないかと思って、黙って従う。この物語は犯罪を見逃すかどうかだけど、官僚やサラリーマンにとっては自分に直接影響のある人事の方が大事。巷間言われている通りだとすれば、某国の財務官僚は人事権を持つ人のためなら自ら違法行為に手を染めることも辞さないくらいだからね。

しかし、フェルトの場合「FBI=自分」の思いが強く、壊されたFBIで偉くなっても意味がないと思っていたのではないか。その彼が、人事権があれば何をやっても大丈夫と思っていたであろう傲慢なニクソンを失脚させたことに、宮仕えの側からすれば少し歪んだカタルシスを感じるのだろうと思う。

とはいえ、人事から自由になるには組織の外の何かに価値を見出すのが普通だと思うから、組織と自分を同一視する人というのは、ある種のオタクで「組織萌え」みたいな。

「鰯の頭も信心から」で人はどんなコトやモノでも信仰したり萌えたりでき、その人の“神”を傷つけてしまうと大変なことになるという教訓を得る一方、ニクソンを失脚させたことが仮に良いことであったとしても、冒涜された“神”の復讐をしないと気が済まないというのは果たして幸せなのだろうか、と思った映画。

●物語(50%×4.0):2.00
・「ウォーターゲート事件」を良く知らないこともあってちょっとウトウトしたけれど、案外好き。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・リーアム・ニーソンの演技が良かった。家にいてもずっとスーツなのは、わかりやすく「組織萌え」。

●画、音、音楽(20%×3.0):0.60
・可もなく不可もなくかな。
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