小松屋たから

ジュリアンの小松屋たからのネタバレレビュー・内容・結末

ジュリアン(2017年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

序章的な短編があること、
原題が「親権」であることなどは、
事前にはまったく知らずに観たので、
親どうしが手段を尽くして子供を奪いあうような
騙し騙されのサスペンスかと思ってた・・

ということもあり、
単純なエンタメ脳の自分としては、
大変恥ずかしくも、結構、終盤近くまで、
実は母親がもっと悪い奴で・・
とか、何か「大逆転」があるのかと構えていたのだが、そんなことはなく、本当にど真ん中ストレートの社会派作品だった。

ただ、いい意味で期待を裏切られたという気持ちはある。シートベルトの未装着音とか、電話の着信音だけで、かなり緊張させられたので。劇伴らしい音楽も(ほぼ?)無し、という潔さは見事。

しかも、最後の妻、「終わった・・」って、何も終わってない。それが最大の恐怖でありこの映画が企画された意義なのだろう。

この夫、逮捕されてもそんなに遠くない将来、世間に戻ってくるだろうし、完全に家族に嫌気が差した様子の娘も(多分)家出してしまったし、この妻と息子の不幸は続くに違いない。

で、ふと気づいたのは・・

父親のDV性質や怒りの沸点が低いところはその父親から受け継いでいる節もあり、
このしっかりしているようで実は甘いところもある母のもと、決して良好とはいえない環境でこのあと成長すると、
今は可愛いジュリアンにも実はそれが引き継がれる可能性があるんじゃないかと。
(決してDVが遺伝に拠るという意味ではないです)

頼りなさそうな娘の彼氏もいずれそうなる雰囲気もあって・・

最後の隣人のドアの閉め方も、
不幸や暴力は連綿と続くが、他人のできることには限りがある、ここまでは手を差し伸べても、ここから先は知りませんよ、という、社会制度や法律の限界を示していたようで。

だから、自分が当初、愚かにも期待していた「大逆転」は、実はこの物語の先にあり、それを、自由に想像してみてください、という意味での無音のエンドールだったのではないかと思った。

面白かった、と人に積極的に勧めるような映画でないが、しばらく心にひっかかることになりそうな作品でした。