140字プロレス鶴見辰吾ジラ

パンとバスと2度目のハツコイの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.0
【どうでもいいや】

「愛がなんだ」の今泉監督の肌触りの良い恋愛映画。現在公開中の「アイネクライネナハトムジーク」も良い評判のようで、この監督の力量というか言葉にできるかできないかの質感をコントロールする“ちょうどよさ“や“日常の少し外“の演出は目を見張る。告白されるも自信がないと断ったヒロインがかつての初恋の人と再会し、しかしその相手は離婚した妻を今でも好きでいると複雑だが糸が絡まるというより温もりのある朝霧の中を散歩するような質感に気持ちは奥へと入り込んでいく。冒頭のフランスパンでの殴打、洗車中のバスの中、明朝の日の出る前の薄いブルー。何を切り取っても日常よりも少し上品な外側に得も言われぬエモさがある。煌びやかでなく、ドラマチックでもないが、その恋愛模様の質感は、挿入される油絵を描く行程での思いや、焼けた駄菓子屋で甘い匂いがしたかどうかの想像を含め、「そんなのどうだっていい」と単に事実以上に形のない心のあり処と感じ方に委ねているので息苦しさを一切感じない。モヤモヤとすることが多いが、脚本のようなドラマ型恋愛や優等生ぶったLBGT恋愛が蔓延したタイミングで、世に今泉監督の力を抜いて溶け込みながら自分を投影する余地のある恋愛映画が登場してくるのは嬉しい必然のような気がする。

私も長く独り身で、煌びやかでなくても派手でなくても良いので体温の行き渡ったゆるく、日常を少しだけ逸脱した恋愛をしたいものだと思う。