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鍵のRのレビュー・感想・評価

(1959年製作の映画)
4.5
マチ子最高! 本作は3回見て3回とも最高!!!って思ったけど、見るときの年齢によって、惹かれるとこが変わっていってる。まず、原作者の谷崎潤一郎はボクが世界一好きな作家で、並ならぬ作品群の中でも、鍵は最高傑作のひとつだと考えております。それを市川崑監督が映画化。原作とは内容も雰囲気もかなり異なってるけど、非常に面白い映画に仕上がっている。最高の官能ブラックコメディなところはしっかり映画に反映されつつ、追加でホラー映画みたいな要素を盛り込んでて、それが笑いの毒っ気を強めている。冒頭、いきなり顔面蒼白なキモい青年がどアップで出てきて、人間の老衰は10歳の時に始まり、10年おきにアレが弱くなり、コレに欠陥が起こり、ソレが衰え、みたいなのを病的な表情で語っていくのにまず爆笑。何じゃこりゃ。そこから始まるのは、家計の傾きつつある京都の古美術品鑑定師・剣持の一家と、インターンの医者志望(冒頭の青年)の木村君のややこしき性事情。セックス大好きな剣持は、年をとって性欲が衰えてきた不安から、自分の娘と結婚させようと考えてる木村君をそそのかして、妻に手を出させ、それを見て感じる嫉妬心で性欲を掻き立てようとする。という訳の分からん話で、このおっさんの妻を演じるのが、恐ろしく妖艷な京マチ子。あり得ない形状の眉毛なのに、真横にぱっくり割れた伏し目がちな眼と、それを引き立てるアイメイクのバランスが絶妙で、顔の円さ、ふくよかな体、餅のような肌、官能的な声、息づかい、裏にドス黒さを秘めた美しすぎる京都弁、などなどが合わさって、この世のものとは思えない艶めかしさを体現。全編マチ子ちゃんに釘づけ!!! 何たる魅力!!! それとは対照的に、彼らの娘のブスなこと無愛想なこと。このふてくされブスが何度も笑かしてくれます。そして、妖怪のようなお手伝いのばばあ…。剣持が、木村君を宅飲みに招待するたび、妻にも酒を飲まして、酔うとお風呂に入って脳震盪を起こし、裸で倒れてしまうエロ妻の面倒を何度も見る木村君。おやおやおやな展開になっていくんやけど、実は、木村君も、妻も、それぞれ腹に一物おありなのです、ふっふっふ。映画の冒頭で、主要人物の誰一人として本当のことを言っていないのを、素晴らしい手際で見せるので、もはやそのあと誰の言葉も、ちっとも信用できなくなってしまってるのが、あとあとどんどん効いてきて、表面で起こってることの裏で、本当は何が起こってるかをむんむん妄想させる演出が実に面白い。そして、独特のテンポの良さ、薄暗く殺伐としたスタイリッシュな映像、奇妙な音楽などなど、全ての要素が人間という存在の胡散臭さ、裏腹さ、妖しさを暴く本作のムードを盛り上げていて、ほんと素晴らしい。現代においても、表面の繕い方は変わったものの、まぁみんな心の奥ではいろんな思いを渦巻かせながら悶々と暮らしてるんやろーなーと思った。最高。マチ子最高。こんな女、絶対他におらん。エロティシズム!!! これほど強烈な毒っ気に満ちた面白い映画が存在してること、喜びでしかない。いまではこの雰囲気は絶対作られへんやろうなー。残念。
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