140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ファイティング・ファミリーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.0
【ザ・レスラー】

イギリスの田舎のプロレス家族からWWEの舞台へ駆け上がったペイジのサクセスストーリーに見えるが、レスリングウィズシャドウが見つめる中の夢を追える人間と夢と断絶してしまった者の映画でもある。ハートフルにエモく脚色したりWWEの女子部門が女性の性を売りにしたビジネスだと批判的な物言いもするし、史実に基づきながら史実を意図的に端折ったり脚色するウーマンリブ的な企画書とエモさ自体もプロレスとしての筋書きと映画としてのバランスを舵取りしながら描いた作品である。舞台裏を公開しつつも人が知ってしまったカーテンの裏側から映る情がクライマックスに生きる。

私は中学生からプロレス観戦にのめり込んだ。弟と毎日ベッドをリングに見立ててプロレスごっこしていた。純粋なプロレスファンの魂とエンタテインメントとしてのビジネス、そして夢破れた者に寄り添う本作の姿勢は勇気づけられたし、脚色もこみで賞賛したい。

ペイジが女子部門の成長に大きく貢献したかはさておきだが、プロレス一家からの成り上がりは、デビッド・O・ラッセルの「ザ・ファイター」にも似ている。しかし暗く、家族との決別ではなく、劇中に示された“プロレス病“に犯され、夢と断絶した後の生きる道探しも思った以上に前向きに見せようとする演出はエンタテインメントと分かっていてもそれをプロレスとして飲み込むことで本作のエモーションは大きく示される。

ペイジのサクセスストーリーに関しては、別にペイジでなくともよい部分は多々あるが、父親が犯罪から足を洗い贖罪として妻と子どもたちとプロレスに明け暮れ、田舎町で犯罪に走りそうになる少年たちをプロレスでつなぎ止めようトするもっと大きな範囲での家族を感じた。盲目の少年を迎えに行き、練習に参加させる寄り添いの姿勢が特に顕著で、夢と断絶した兄と夢を背負わされた妹の精神的な危うさや、性のビジネスとして下品なファンの前に晒されるリスクを冒しても夢に貪欲な女子部門の育成レスラーたちのカーテン裏も興味深い。

家族という呪縛を心配した前半から疑似家族含めた大きな領域の繋がりの話へ飛躍していき、夢との断絶の末に決断をする場面も温かく魅せることは、フリークと呼ばれた田舎の日陰者たちへのエールにも映る。

単純なシンデレラストーリーに成らぬようヴィンス・ボーン演じる教官の自分の過去話も含めWWEという巨大産業が抱える裏側の多くを取り込むためのセンスと職人の境界線の提示もゾクリとさせられる。

明るくクリアな画面とレスリングの背後に確かにある影をもって破滅的な物語にも切り取れるペイジとプロレス人生だが、プロレス病に犯されながら各々が道を歩み、贖罪や夢の守人になる人の繋がりも含め、映画としてバランスとエモーションを内包した完成度に仕上げるために工夫はされていると思う。

史実ベース映画恒例の本人映像がエンドロールで魅せられるが、各々が人生において設定されたロールをプレイすることを応援する映画として、脚色と痛みに塗れたプロレス映画がまたエモく心に残ったことは感謝したい。