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ファントム・スレッドのYACCOのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
3.5
ダニエル・デイ=ルイスの俳優業引退作となるらしい「ファントム・スレッド」。
監督がポール・トーマス・アンダーソン、音楽がジョニー・グリーンウッドと『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を思い出さずにはいられない布陣を敷き、一体どんな作品をもってその俳優業を締めくくろうとしているのかと足を運ぶ。
ポール・トーマス・アンダーソン監督ということで、一筋縄ではいかない映画だろうと思ったが、男女の倒錯した愛を描いたややホラーともいえるような展開に、最後は正直おいてけぼりをくってしまった。こんな愛の形もあるのか、いや、そもそもここまでくるとこれは愛なのかという疑問すら浮かんでくる。

50年代のイギリスを舞台にした今作。ダニエル・デイ=ルイス演じるレイノルズだが、オートクチュールドレスのデザイナーという役は彼にとても合っていた。なんというかとてもしっくりくる。(そもそも、彼が靴職人でもあるからかもしれないが…)服を着た時の佇まいから、視線の使い方や指先の動きまでが優雅で美しく、完璧主義で己の世界を乱すものの存在を受け付けないその姿も、時折垣間見せる繊細さも含めて、彼のドレスや彼の世界を守るためならば、大抵のことは仕方がないことなのだとみている側を納得させるものがそこにはあった。そう、なんというか魅力的なのだ。どこか、守ってあげてたくなるような。
 そんな彼の世界に波紋を投げかけ、そして浸食(私のイメージとしては彼女のやりかたはそんなイメージ。それも正攻法ではなくじわじわと真綿でしめるように)していく若い女がアルマ。最初は、アルマに同情しながら見ていたのだが、それは徐々に変化し、最後には理解不能なところにまでたどり着いた。女の私がいうのもなんだが、女は怖い。そして、男は弱く脆い。

劇中に登場するレイノルズがデザインしたというドレスはどれも美しい。そして、それらをより美しく見せるかのような音楽の旋律も心地よく響く。また、この映画での音の使い方もとても特徴的だと思う。映像をより美しく見せる旋律として響く音も、時に不協和音として響く耳障りなその音もまた、この映画には必要な要素なのだ。

この映画では、基本美しいものばかりが映像として見せられているのに、そこに生きる男女は美しいものを身にまとい、美しいものに囲まれながら、その実倒錯した世界で己が欲する愛を求める。しかし、ポール・トーマス・アンダーソンならばそれを狙って作ったに違いないと思ってしまうのは、かいかぶりか。

そして、ダニエル・デイ=ルイス。最後と言わずまた、映画の世界に俳優としてかえってくることを願ってやまない。彼ならば”何度”それを繰り返しても許されるだろうから(笑)
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