タケオ

68キルのタケオのレビュー・感想・評価

68キル(2017年製作の映画)
3.8
-殺られる前に殺れ!クズども大集合の血みどろジェットコースター・ムービー『68キル』(17年)-

 小説家ブライアン・スミスによる同名パルプ・マガジンを原作としたブラック・コメディである。監督は、「トロマ・エンターテインメント」でジェームズ・ガンとともに『トロマズ・エッジTV』を手掛けていた職人トレント・ハーガ。気弱な主人公が恋人に言われるがまま渋々強盗に同行してしまったがために、あれよあれよという間に泥沼に陥っていく姿をダークな笑いとともに描き出していく。
 とにかくご機嫌な作品である。死体がゴロゴロと転がる全編血みどろな内容にも関わらずポップな仕上がりとなっているのは、毒っ気溢れる不謹慎なギャグはもちろんのこと、とくにキャラクターたちの魅力によるところが大きい。本作に登場するのは倫理観を著しく欠いた'超'危険人物・・・もといクズばかりなのだが、いずれのキャラクターもカートゥーン的にデフォルメされており、であればこそ、そんな彼/彼女たちがふるうウルトラ・バイオレンスにも無邪気に喝采を送ることができる。とくにアナリン・マッコード演じるクレイジーなヒロイン ライザは出色のキャラクターで、ただでさえぶっ飛んだ映画を「モア・ファニー」なものとしている。『スーサイド・スクワッド』シリーズ(16年~21年)のハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)なんかよりもよっぽどイカれているし、それにはるかに凶暴だ。気弱な主人公はそんなライザに精神的にも経済的にも依存してしまっているわけだが、生きるか死ぬかの地獄めぐりの果てに、やがて独り立ちを余儀なくされていく。やり方こそトリッキーそのものではあるものの、なんだかんだで主人公の成長を真摯に描いた作品なのである。
 低俗.下品.残酷と三拍子揃った『68キル』だが、それゆえに「上品でタメになる感動的な映画」が束になっても敵わないワイルドな輝きを放っている。「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」で観客賞を受賞したのも十分に納得だ。それに本作だって、(一応)タメになる感動的な映画だと筆者は思う。『68キル』には「死にたくなければ殺られる前に殺れ」「セクシーな美女の誘惑には気を付けろ」という至極真っ当なメッセージが込められているのだから。
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