小松屋たから

工作 黒金星と呼ばれた男の小松屋たからのレビュー・感想・評価

工作 黒金星と呼ばれた男(2018年製作の映画)
4.1
身分偽装による敵国潜入、個人と国家の狭間で揺れる想い、故国からの孤立、国境を越えた友情。スパイもの映画に必須の要素がふんだんに、かつ、圧倒的な迫力で詰めこまれているので面白くないわけがない。常に「戦争中」で、もはや名目上かもしれないが「敵国」と国境を接しており、実戦経験が豊富な国情がそうさせるのだろうが、韓国の政治、軍事絡みの映画はやっぱり一級品揃い。この分野では邦画はまったく敵わない。

南北の政治の裏の繋がりは確かにありそうなことだが、どこまで本当かどうかはよくわからないし、北朝鮮前指導者も微妙な「そっくりさん」で若干違和感はあるので、そのあたりはあくまで割り引いて、事象はフィクション、人物はデフォルメ化されたものとして観た方が良いのだろうが、主役に実在のモデルが存在するということが、観客に緊張感をもたらす。とにかく、最初から最後まで弛緩のないノンストップサスペンスで、派手なアクションがあるわけでも無いのに、会話や表情、駆け引きだけで十分に興奮させられる。

ただし、個々の人間そのものについての描写はやや類型的だし、ごく身近な人どうしの繊細な心の機微を描いたりするのは邦画の方が上手いと改めて思った。もちろん国民性の違いもあるだろうが。

国際関係が色々拗れている今、だからといって、韓国映画と距離をおく人がいたらすごくもったいない。これぐらいの破壊力を持つ社会派エンターテインメントを作れる国がすぐ隣にあるのだから、別にここで何かきれいごとを言いたいわけでもないが、せめて、映画では、作り手も観客も良い刺激を受け合っていけたらいいなと思う。