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Love,サイモン 17歳の告白のkomoのレビュー・感想・評価

Love,サイモン 17歳の告白(2018年製作の映画)
4.8
家族や友人に囲まれ充実した日々を送る17歳のサイモン(ニック・ロビンソン)は、自分がゲイであることを誰にも打ち明けられず悩んでいた。
そんな折、学園内のSNSに『僕はゲイだ』という告白が投稿される。"ブルー"と名乗るその人物に、サイモンは"ジャック"というハンドルネームでメールを送り、誰にも話せなかった秘密を初めて告白することになる。
心を通わせてゆく2人だったが、相手が学園内のどの生徒なのかは互いに知らないままであった。
やがてそのメールが第三者に目撃され、サイモンは脅しを掛けられてしまう。そして秘密を守るためにサイモンが取った行動は、多くの友人たちにも影響を与えてゆく。


LGBT映画をよく観るのですが、今までに観たことのないタイプのストーリーで新鮮な気持ちになりました。
そして、ただただ良かったです!
SNSが主軸となるイマドキの物語だけれど、ジャケットがオールド風なのは何か狙いがあるのかな…?
ティーンの青春ものをあまり観ない方にもぜひぜひ観てほしいです。
サイモンやブルーが自分自身の心を表現する文章が真摯で美しく、とても感銘を受けました。

サイモンは『ゲイであること』を恥じているわけではなく、『それをカミングアウトするかどうか』について悩んでいます。
それを告げれば、家族や友人が自分を見る目は確実に変わってしまうはず。
高校生活も残り僅かだし、友人たちにはわざわざ打ち明ける必要はないかな…というのが序盤での彼の考え方。
良好な人間関係にわざわざ変化をもたらすことは、とても勇気が要ることです。

ですがブルーという人物とのメールを通して、サイモンは影響を受けて行きます。
しかしサイモンの考え方がより明るい方へと転じてゆこうかと言う時、彼の秘密は全く関係のない第三者によってバラされてしまいます。

『秘密をいつどこで誰に、どうやって打ち明けるか』。
それはサイモン自身が決めて良いはずだったのに、それを決断する機会を奪われてしまったのでした。

人は誰でも大なり小なり秘密を持っていると思いますが、その中には『言いにくいがいずれ打ち明けなければならない秘密』、『打ち明ける必要のない秘密』、『打ち明けない方が幸せでいられる秘密』など、その性質は様々です。
サイモンの秘密は、上記すべての性質を持っているものだと思います。
それほどまでに複雑な秘密を打ち明けるのは、きっと何歳の人であっても心苦しいはずなのに。
17歳でその決断をし、日々想いを巡らせてゆくサイモンの強さ、麗しさたるや……!

サイモンの秘密を知った仲間たちの反応は、差別的ではなかったにせよ、等身大の少年少女たちだったのが印象的でした(もっとも彼らはサイモンがゲイであることよりも、彼がそれを隠すためにしていた行動の方に疑問を抱いていたのですが)。

そしてサイモンは最後に"ブルー"の正体を知るのですが、彼本人と出会っても『2人だけの世界』にならなかったのが何よりも良かった!
仲間たちに見守られながら始まる彼らの恋愛は、しかし決して彼らだけの物語に留まらず、皆がひとつになれる輪へと繋がってゆくのです。
小さな観覧車が回り続ける情景が、それを表していました。また、ラストシーンではサイモンが運転する車が良い味を出しています。

人は"普通"と違う人に疑問や恐れをいだくもの。
その人と自分はちょっと違うかもしれない。しかし同じアトラクションに乗ってしまえば、考えることはきっと同じ。その人も自分と同じように、楽しんだり怖がったりするのを繰り返すでしょう。
性的嗜好など関係なく、みんなで同じ乗り物に乗れたら幸せ。
"自分と違う人"と一緒に乗り合わせることに、恐れを感じなくなるような。喜びを見出せるようになれそうな。そんな温かい勇気をくれる作品でした。

あ、あと!最後まで観終わった後だとタイトルもとても愛おしく感じます。
柴門ふみ先生の『P.S.元気です、俊平』以来のときめき…。
そして不思議なことに"さいもん"繋がり。
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