ゆーあ

プーと大人になった僕のゆーあのレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
4.0
「好きな海外俳優、女優を挙げて」と言われたら半日かかっても終わらないのですが、「一人だけ」と言われたら迷わずこの方を挙げます。

ユアン・マクレガー!!

高校生以来の大ファンですが、海外プレミアに出席することが少なく、とりわけ日本は今まで来たことがないので、きっと生涯なまでお目にかかれる機会はないものと、それこそ「遥か彼方の銀河系」の俳優さんだと信じ込んでいました。

しかしこの度、『プーと大人になった僕』のプレミアのため、来日が決定!!

一報を聞いたときは想像もしなかった僥倖に飛び上がり、すぐにファン仲間と興奮を分かち合いました。そして、更に…Filmarksさんから「ジャパンプレミア招待」の当選メールが届いたときは、あまりの嬉しさに信じられず、文面を何度も読み直してスクショを撮り、周囲に確認を取ってしまいました(笑)。…きっとホグワーツの入学案内を受け取ったハリーってこんな気持ちだったんじゃないかなあと思います。
プレミア当日の感想は、文字通り筆舌に尽くしがたい素晴らしいものでしたが、ここからはそこで一足先に鑑賞した映画の感想を語りたいと思います。

『くまのプーさん』の実写化ということで、動いて喋るぬいぐるみをどう表現するのだろうと思っていましたが、とても自然ですっと受け入れられました。それぞれ確たる個性や意思をもち、生活を営む命を宿した存在である一方、ぬいぐるみの質感や触れたときに感じる安心感がある。少しくたびれて毛がペタッとなっているところも、クリストファーとのふれあいや年月を感じさせ、こだわっているなと思いました。ちなみに私はイーヨーがお気に入りです。もともとああいう楕円形のフォルムのものが好きなのですが、ネガティブで卑屈な敬語が可愛い~

この作品のキャッチコピーとして、「大人になって忘れてしまった本当に大切なモノを思い出す」という言葉がありますが、仕事と家庭の重圧に八方ふさがりになるクリストファーの状態が本当にリアルで…!「忙しい」とは「心を亡くす」と書きますが、まさにその状態。数十年ぶりに予期せぬ再会を果たしたプーさんのことはもちろんまだ好きだし、友達だと思っているけど、正直今は構っている余裕が全くない。それに時間をとられるくらいなら、いっそ傷つけて遠ざけてしまったほうが楽―こういう経験は自分にも覚えがあるので、見ていてすごく苦しい気持ちになりました。またプーさんが再会に有頂天になるわけでもなく、昨日会ったばかりのような、昔のままの感じだからよけいに…!クリストファーの家や100エーカーの森に至るまでの道でプーさんがほほえましいトラブルを起こしまくる様は、往年のディズニーアニメのドタバタテンポで可愛く愉快なのですが、それより焦燥感をガンガン募らせるクリストファーの方に共感してしまい、うぅ、本当に大人に向けて創ってある映画だと思います…。
(しかし、その日の試写会には声的に幼児くらいの子供がいたようなのですが、これらのコメディシーンに絶えず大笑いをしていたので、もちろん子供にも楽しめる優しく可愛い映画であることは間違いないです!)

そんなクリストファーが100エーカーの森で幼い日々の足跡を追い仲間たちと出会うシーンは、この作品におけるオアシスです。子供と大人のスケール感の違い、それによって生み出された脅威―子供時代の無限の創造力と遊びを尊く感じ
ました。大人の洞察力で脅威の正体を見破っても、それに打ち克つためには子供のころの方法でないといけない、というのも面白かったです。
とはいえクリストファーは大人なので、間もなく仕事を理由に100エーカーの森を去るのですが、その時プーさんが言った「それは風船より大切?」という言葉は深いなあと感じました。ここで言われる風船とは物体そのものではなく、幸福のメタファーではないかと思います。そして幸福とは、それを持っていることで得られる楽しい気持ちなのか、娘マデリンのことなのか、あるいはその全てか…考えるほど人によって答えを変えるふわふわしたものだと思います。手放したらどこかに飛んで行ってしまうような。

原作やアニメもそうだと思いますが、この映画においてもプーさんは心に響く言葉を沢山口にします。文字に抜き出して書きとめると格言めいてしまうそれらも、作中ではプーさんののんびりして純朴な性格によってごく自然な台詞に聞こえます。その中のどれを拾うかは、観客それぞれの置かれた状況によると思います。ある人には一歩踏み出す励ましのエールとして、ある人には苦境を癒す慰めとして…プーさんの言葉は飾り気なく無垢だからこそ、どんな人にも形を変えて寄り添ってくれます。それゆえに『プーと大人になった僕』は名言の宝庫なのです。
ちなみに私が最も心に響いた言葉は「行ったことのない場所へ進まなきゃいけない。いたことのある場所に戻るんじゃなくて」です。ここからは完全に自分語りですが、ちょうど『プーと大人になった僕』の公開日である9/14に仕事をやめ、新しい会社に転職します。現職は約10年務め、仕事も楽しく居心地もいいので、転職を決めて良かったのかすごく悩んでいました。そんな状況において、この言葉は前向きに私の背中を押してくれました。実はプレミアでは作中の言葉とカットが印刷されたカードがランダムに配られたのですが、私の手元に来たのがこの言葉でした。普段そういうことはあまり思わないのですが、これを運命と捉え、カードにユアンのサインをもらいました。一生の宝物として、新しい会社生活のお守りにしたいと思っています。

『プーと大人になった僕』の物語の展開と、クリストファーの心の様子は、映像の色調に反映されています。最初は霧と雑踏に塗りつぶされたロンドンと同じ灰色だった100エーカーの森は、ついには私たちがよく知る鮮やかな色にかわります。見慣れた明るい黄色に体に赤い服を着たプーさんと並んでみる丘からの眺望は素晴らしく、絶景として心に焼き付きます。

子供時代が終わり、大人になって、忘れてしまった本当に大切なモノを取り戻した時―そこで知るのは、決して大人であることの否定ではなく、子供を経て大人になった自分自身の本来の姿なのではないかと思いました。
ゆーあ

ゆーあ