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千と千尋の神隠しのRのレビュー・感想・評価

千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)
4.6
劇場公開されてると知り、見に行ってきた! めちゃくちゃ久しぶりに見た! 最初から最後まで通して見たの10年以上ぶりな気がする。むかし見たときと感じ方がちょっと違ってた。前は、普通に楽しくて、普通にいい話やなーと思ってたけど、このたびはとても複雑な心境になりました。なぜでしょう。それを考えてみる前に、とりあえず、すごい! 2時間あっという間! 千尋の家族が偶然と必然の狭間で妖怪ワンダーランドに足を踏み入れてしまう冒頭の恐怖演出のスリル! ある親愛なる友人が、子供の頃見たとき最初のシーンめちゃくちゃ怖かった! と言ってて、別に怖くなくないか? アホか? と思ったけど、今回見て、おお、おどろおどろしくのびる影、影、影、これは確かに怖い。慌てて戻って来たときのブヒーブヒーピシャリの怖さ! そして、そこからイマジネーションとクリエイティビティの横溢する、めくるめく妖怪湯屋ワールドが大展開! すさまじいスピード感で緻密に演出される世界観のなか、子どもが落書きで描いたような、ザックリした印象の化け物たち(南無の文字の雑さ笑)が、のそりのそり湯屋のなかを移動する様が面白い。彼らとは対照的に、湯屋で仕事をもらい、バタバタ駆けずり回りながら、少しずつ肝っ玉の座っていく千尋、そんな彼女の成長譚、というのがメインのテーマなのでしょうが、それだけでは到底語り尽くせない、不思議な曖昧さが、見てる間つねに心に引っかかる。その曖昧さは、ある意味では本作の世界の広がりに感じられるし、ある点では閉ざされたモヤモヤのようにも感じられる。登場人物が表面上みなハイで騒がしい分、余計そこが気になる。一体何なのだろうか、この気持ちは。と。考えてみると、まず、やっぱ本作が、ただ単に労働が人間にもたらす良い効果を描いてるだけではない、ということが挙げられるだろう。逆らうことのできない完全トップダウンな労働形態において、自分の名や親を思い出せなくなる、というのは現代社会の労働状態のメタファーと見れるし、拝金主義や資本主義の行き過ぎによる精神世界の周縁化、大量消費による環境破壊などなど、様々な問題が、時にサラっと、時に大きく、常にユーモアをたたえながら随所に盛り込まれる。そのなかで、それらに翻弄されぬまま、たくましく成長していく千尋のブレなさ。最初あんなブレブレやったのに。それを支えるのが、美少年ハクなんやけど、ハクの正体も、はっきり言って、ぱっと見て、あ!そーだったのか!なーるほど! なーんてことになるわけがないのであります。え⁈ どーゆーこと⁈ ってなる。だって子供の頃に起こったピンチの話が、前後関係なく、とつぜんぱっと出てくるんやから。しかしながら、忘れていた大切なことを思い出す、という事象そのものが、そもそもものすごくハートに響くため、何もかもが謎めいてるにも関わらず、涙がこぼれてしまう。この「思い出す」というテーマは、後にハウルの動く城でさらに深化し、君の名は。にパクられて(?)より薄く広く浸透した。それを考えると感慨深い。ってのはとりあえず置いといて。そこらへんの謎めきが、コレハイイ映画ダネ!とシンプルには思わせてくれない、大変に奇妙な印象を与えている気がするのです。とは言え、素晴らしい映画であるのには変わりない。ボクはやはり海の上を走る電車のシーンがとても好きです。美しすぎる。穏やかで、静かで、優しく、悲しく、胸がキューってなる。特に、踏切を通り過ぎるショットがたまらない。久石譲のピアノ曲もたまらない。ボクはこのシーンの哀しみに、銀河鉄道の夜の哀しみを思い出します。銀河鉄道の夜はホントに最高の映画。見直してみたくなった。Blu-rayでもう一度見てみよう。ちなみに、千と千尋について人と話すとき、きかれて困るのが、どのキャラクターが好きか、という質問。よく考えると、どのキャラもさほど好きになってないような気がするなーと。他のジブリの濃厚なキャラたちと比べると、本作のキャラはちょっと薄口なのかな。声も他のと比べるとインパクトが少なめ。いや? 待てよ? 逆にどいつもこいつもインパクト強すぎてハレーション起こして見えにくくなってるだけなのかな? そうなのか? まぁいいや。どっちにしろ、まーとんでもないキャラ出してきたなーと思うのが、カオナシことFaceless。隅っこでおどおどしてた物静かな人物が、俄然、金をちらつかせながら、ヤらせろ、と幼女に迫りゆくあの姿は……ジブリ最大のトラウマシーンになり得ます。あと、湯婆婆が千尋に、死ぬほどキツい仕事を永遠にやらせてやるぞ、みたいなことを、目をひん剥きながら言うシーンも、業務内容を想像するとヒヤッとする。というふうに、非常にいろんなことを考えさせる、何とも言い難い、とっちらかってるよーな、めちゃめちゃ上手くまとまってるよーな、ふしぎ〜な一作やと思いました。映画館で見れて良かった! ちょっとした個人的事情も重なり、いろんな意味で忘れ難い鑑賞経験になりました! 生きている不思議。死んでいく不思議。また見たい!
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