主演は、この頃アイドルの頂点にあった、新三人娘の園まり、相手役が藤田まこと、監督は植木等の「日本一の男」シリーズの坪島孝、という事で、渡辺ブロのアイドル歌謡コメディ映画なのだが、

原作が松本清張の「たづたづし」（ハッキリしない、不安である）で、まさに主人公の藤田まことにピッタリで、この小心者の自己保身男が、出来心の浮気から破滅へと向かう、非常に良質なサスペンス映画に仕上がっている。基本コメディなので、肩をはらずに見られるのも良かった。

原作を大胆にアレンジして、雨宿りの園まりを藤田まことがナンパする場面から始まって、最後また雨宿りする園まりがナンパされて、車で何処かへ行くところで終わるところは、上手い演出だった。（ラストシーン、園まりが歌う「愛のきずな」しっかりながれます。）

クライマックスの列車の格闘シーンや、くすねた会社の闇カネが宙に舞うところなど、意外に手に汗握る展開だった。

しかし、ジャケットがセクシーだけれど、園まりなんで、期待していたそういうシーンは無い。残念。

松本清張×コメディ出身の坪島孝×日活アクションやテレビドラマで活躍した小川英×藤田まことという変なスタッフの組み合わせが、かえってジャンルにとらわれないノワールのようでコメディで小市民ドラマという不思議な魅力のある秀作になっているような。

会社の重役の娘である妻に頭が上がらず、そんなストレスを発散させるためたまたま知り合った美女の園まりと軽い気持ちで浮気するが彼女が本気になってしまい困ってしまった挙げ句凶行に出てしまう…。そんな徹頭徹尾情けないそのくせ欲や見栄だけ一人前にある主人公のキャラは後年中村主水や安浦刑事といったサラリーマン的な人物像をはまり役とした藤田まことによく合っている、そして園まりに手をかけたときや終盤の切羽詰まったやりとりなど緊迫した状況なのに不思議と笑えてしまうのは元コメディアンだからこそ出来る芸当なのかも。

そして藤田まことを結果的に堕落させてしまう無意識なファム・ファタール園まりが凄まじく魅力的。健康的な顔立ちとルックスなのに、ふと見せる艶っぽい表情や朗らかで屈託のない表情と結果的にやっていることのギャップによって一層運命の女としての輝きを放っている。

冒頭とラストで降る雨がまるで物語が一巡して元に戻ったかのようで印象的。

元奥さんであった園まりを追いかける佐藤允はチンピラ+ストーカーっぽいが、最後に男気を見せるのでいい人のように思えてくる。

あと『もののけ姫』のように女性からもらったプレゼントを他の女性にあげるのはやめましょう。

園まりのキャラクターがいちばんノワール。ひとりにしないで…。なんでこんなすごいへんなの作れるの。