映画大好きそーやさん

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

3.8
映画史に闇を落とした実際の事件を題材に、映画という虚構で真っ向から夢を語ったハリウッドへのラブレター的作品!
クエンティン・タランティーノ監督作で言えば、『パルプ・フィクション』と合わせて2作しか観たことがないのですが、そんな私でもかなり楽しむことができました。
音楽使いも然ることながら、当時を反映した美術であったり、タランティーノ特有のスリル満載なシークエンスがあったりと、映画としての面白さが詰まりに詰まった2時間39分だったと思います。
とにかくレオナルド・ディカプリオ演じるリック・ダルトンと、ブラッド・ピッド演じるクリフ・ブースの二人が最高で、ずっと彼らの交流を見守っていたくなりました。それ程までに、キャラクターたちが魅力的に描かれていました。
史実に基づく内容ということもあって、予習しておいて正解、というより予習必須な感動がクライマックスに置かれているため、本作の読解ハードルは予想以上に高くなっていました。この辺りの評価は、個人的にも悩みの種になる要素でしたね。
大きな流れ、文脈の中で脈々と受け継がれ、また変化していくのが映画の特色でもある以上、どうしたって現実と結び付いてしまうことは多々あります。
9.11によって甚大な被害が出た翌年以降には、ポスト9.11と呼ばれる作品群が生まれたり、最近で言えばインターネットの普及、SNSの拡大からマルチバースという設定が広く受け入れられ、前述したSNSのメタファー的な意味合いとして使われることも増えてきました。日本での『シン・ゴジラ』における、震災のメタファーも強く印象に残っていますね。
と、ここまで語ってきたような現実と映画の関係性に関して、殊本作においてはラストの一連のシークエンスのすべてに現実が関係してしまうため、どうしても評価を低めにせざるを得ませんでした。
シャロン・テート殺人事件の概要を知らなければ、オチが生まれないのは致命的な問題と言えるでしょう。
ただバイオレンスな描写が垂れ流される終盤、そしてその行き着く先を観て、何の構えもなく鑑賞した人は楽しみようがないと思います。
とはいえ上映時間が長めであっても飽きさせない、映画的な工夫は随所に見つけることができ、キャラクターや展開におけるモチーフの物語的な役割もとても豊かなものがあったかと思います。
切り取ったハリウッドという遠い世界の、その時代に生きた人物たちの生き様を見つめ、ただ愛に浸る。そんな素敵な作品として享受し、史実を絡めたうえで理解するとわかる全体像に、静かに、それでいて力強く感動させられる快作でした!